戦争の犬たち執筆の動機をフォーサイスにもたらした歴史
ビアフラ物語―飢えと血と死の淵から フレデリック・フォーサイス (著), 篠原 慎 (翻訳)
ビアフラ動乱は私が小学生から中学生にかけての出来事だったと記憶しています.そのときフォーサイスは戦場にいてこの悲劇を目撃し,ジャーナリストとして国際社会に虚しく訴えていました.欧米諸国の植民地経営に関する無責任さに怒りを感じていたのだと思います.そのため彼は後年私財を投じてクーデターを計画,傭兵を雇い武器を調達し,これからというところで官憲に見つかり計画は頓挫.その代わりに「戦争の犬たち」を書いた,という逸話はあまりに有名ですね.
ところが最近のインタビューでは彼はこの逸話を「噂話」として否定しています.こうなるともう真相は闇の中ですが,若きフォーサイスにそれほどの義憤を呼び起こさせたビアフラとは何か,フォーサイス渾身の筆致を感じながら読むと,60年代末の植民地経営終焉のころの時代感覚が蘇えってきます.ベトナムでも,カンボジアでも,類似の悲劇は起きていたはずです.
そういうわけで,ビアフラ物語はそれ単独で読むよりは「戦争の犬たち」を読んだ後に読むとさらに理解が深まります.はるか昔に絶版(初版は1981年)となっているため今は古書としてしか入手できないと思いますが,戦後のアフリカ史,欧米の植民地政策史を語る上でも重要なエピソード.フォーサイスの翻訳を数多く手がけてきた篠原慎氏がこの本も翻訳しています.
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