真の贖罪ができないアメリカ
マクナマラ回顧録―ベトナムの悲劇と教訓 ロバート・S・マクナマラ (著),仲 晃(訳),共同通信社,価格: \2,625
ベトナム戦争は僕が小学生の頃でした.毎夕のニュースコープで田英夫や古谷綱正が,北爆がどうした,ベトコンがどうした,マクナマラ国防長官がどうした,としゃべっているのを見ながら夕食を食べていました.それから僕は大学生のときにハルバースタムの「The Best and Brightest」を読み,映画「地獄の黙示録」や「グッドモーニング,ベトナム」を見て,そして中年になってからこの本を読みました.
まずはマクナマラの真摯な姿勢とその知性に脱帽です.彼はこの本の執筆後ベトナムを訪れ,当時の北ベトナム軍の最高幹部らと「歴史の検証」を行っており,それはNHKでも放映された(「敵との対話」)とおりです.マクナマラはほぼ同じ時期にキューバ危機についてもカストロたちと「歴史の検証」の会議を行っています.これは本当に面白いことなのですが,現代史では,歴史の検証が,それも当事者たちによって,可能なのです!その検証を通して,双方に,相手の真意の読み違い,誤った意思決定,偶発的出来事があったことが浮き彫りになります.
これらの検証を通してマクナマラは彼なりに当時を反省していきます.その姿勢はアメリカ人としては稀有なことながら,キリスト教徒として絶対善の神の監視の前ではそうせざるを得なかったのでしょう.
しかしながらマクナマラの反省はベトメム人に対して罪を詫びているわけではありません.彼は多数の犠牲となった兵士を送り出した母国の国民と自らの神に対して詫びているのです.そこに,まだまだ現代史の総括をするには早すぎるアメリカの精神が見えてきます.ハルバースタムの一連の著作と合わせて読むと,さらに深く考えるきっかけとなります.
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