戦場のリアリズムと,大切なものに捧げる命の尊さ
プライベート・ライアン Steven Spielberg (監督)
この映画はまずビデオを買って,まずそのリアリズムに度肝を抜かれ,DVDも買って何度も何度も反芻して見ている映画です.
特筆すべき点は二つ.まず戦場のリアリズムを徹底的に追求しています.これは様々なWEBサイトで語りつくされているので省略しますが,階級ごとの軍服や装備の区別,銃の作動音の差異などもきちんと再現されているそうです.また戦闘シーンがあまりにリアルなため,アメリカでは退役軍人たちが戦場の悪夢を思い出して苦しむ事例が多発し,在郷軍人会がその対策に乗り出すなどのエピソードもありました.
もう一つは前半で本国の司令官が取り出して読むリンカーンの手紙.これは大切なものに捧げる命の尊さを述べたものですが,これがこの映画の大切な伏線となっています.なぜ一人の二等兵のために七人の兵士が命を危険にさらさなければならないのか.トム・ハンクスが演じるミラー中隊長も元は平凡な一市民.その兵士が妻に誇れる帰還の仕方とは何か?兵士が兵士に捧げた命であると同時に,アメリカという市民社会が同じ市民国家であるフランスに多数の命を捧げたというメッセージも読み取れます.しかしこの映画の冒頭とラストの星条旗は全く興ざめですね,スピルバーグともあろう者が.
いずれにせよ,戦争映画が「プライベート・ライアン以前」と「プライベート・ライアン以後」とに分類されるほどのインパクトを持った作品であることは間違いありません.
往年の名作「史上最大の作戦」や「パリは燃えているか?」と合わせて鑑賞するとさらに興味は深まります.前者は,プライベート・ライアンの冒頭のシーンに至るまでの米英軍のイライラと,迎えるドイツ軍のもやもやした不安がよく伝わります.昔は戦争娯楽映画と思って見ていたのですが,なかなか骨太の戦争映画だったことがよくわかります.
後者はノルマンディーの後,パリが解放されるまでをパリ市民の目で描いたものです.一向にパリ開放にやって来ない連合軍をやきもきしながら待ち続けるレジスタンス活動家たちと,パリ爆破を思いとどまったドイツ軍司令官の人間性がよく表現されています.戦後フランス映画スター総出演なのがすごい.
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