石油・天然ガスは国際自由市場の商品,だが地政学の呪縛も強い
世界を動かす石油戦略 石井 彰,藤 和彦 (著),価格: \735
タイムリーな本ですが,エネルギーの上流部門を産業として持たない日本で,この本の内容がどれほど理解されているかは大変疑わしいと思います.興味を持つ読者数も相当限られていることでしょう.政治家も官僚もジャーナリストも上流部門には大変疎い,それに繁栄を依存しているにもかかわらずです.
この本で学んだことは以下の二つです.まず第一点は,石油は第二次世界大戦を引き起こしたときのような戦略物資ではなく,世界的な市場で相場によって自由に売買され輸送される商品であることです.いまや地政学的な見方は時代遅れです.石油がほしければ端末のキーを叩くだけなのですから.パイプラインが無くともタンカーの輸送コストは十分に低いので日本も特に不利な立場には無いというのが重要な点です.
CO2削減に応えるために需要が増している天然ガスでは事情が異なります.パイプラインが張り巡らされたヨーロッパでは石油と同じような自由市場の商品になりつつありますが,日本は生産地とパイプラインがつながっておらず,大変高コストのLNG輸送に頼らざるを得ないのです.日本は国内にすら天然ガスのパイプラインがありません.自由市場の商品とは言いがたいのです.COP3の政治的意味を考えるとこれは大変な負のポテンシャルです.ヨーロッパは天然ガスに対する有利な立場を最大限活用して,今後COP3に対する政治的イニシアチブを高めてくることでしょう.
そして第二点は,昨今のパイプライン敷設ルートの駆け引きを見ると,古めかしい地政学的戦略が再び頭をもたげてきていることです.ロシアは中央シベリアに埋蔵されている豊富な石油・天然ガスを国際的に有利に売りさばきたいのですが,パイプラインを直接日本海に出すか,これからの大消費地中国を経由するのか,戦略を練っていることでしょう.当然サハリンとの関係も含めて.
環境保護勢力がアラスカでやったようなイニシアチブをシベリアとサハリンで再現するようなことが出来ればまた構図が変わってくるのですが,経済マフィア国家のロシアでは当分無理かも.サハリンの豊かだが脆弱な自然はもう取り返しがつかないかもしれません.
うーん,日本のエネルギー政策はあまりに原子力に偏りすぎたなぁ.エネルギー上流部門に無知な官僚が,国民的議論を蹴散らして原子力に賭けてしまった結果がこれです.そのツケがこれから回ってきそうで憂鬱になります.
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