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2004/12/18

ダーウィニズムはアルゴリズムである

進化論という考えかた 佐倉 統 (著),価格: \693

Shinkaron_toiu_Kangaekata進化論の歴史は人類の概念拡張の歴史でもあります.これは数学が数の概念を自然数から整数,有理数,実数,複素数と拡張してきたのとよく似ていて,一度くびきを放たれたら近代的知性とはこのようにばく進できるものなのだという威力を示してくれます.進化論の場合,その本質は「中立でランダムな変異と,その変異と環境との相互作用により決まる自己増殖率の差異に基づく淘汰」というアルゴリズムです.本書最大の功績はこのアルゴリズム性をくどいまでに強調していることです.

進化論の「自然淘汰」に関連してで非常にしばしば出会うものに「強いものが生き残る」という誤解があります.「弱肉強食」という概念も似たような誤解の一つです.つまり,強い者が弱い者を捕まえて食べてしまう,それは強者の特権であり,そうやって強いものが他を打ち負かして生き残っていく,それは自然の摂理にかなったものだ,という誤解です.ダーウィニズムをよく読めば,そんなことはどこにも書いてありません.ある二種類の生物種が食べる・食べられるの関係にあろうと,それぞれの環境への適応度で決まる「繁殖率」の差が,最終的な「生き残りやすさ」そのものなので,どちらが長い歴史の中で生き残っていくかは自明ではないのです.サバンナではライオンが数を増やしているわけではありませんし,ライオンに食べられている草食獣たちが数を減らしているわけでもありません.

このダーウィニズムというアルゴリズムは大変強力で,その強力さに恐れをなした反対勢力の攻撃は今でも続いていますが,もはや勝敗は明らかではないでしょうか.私にとってはこのアルゴリズムは汎用性のある宇宙的原理とさえ思えます.ところが伝統的な西欧的知性にとっては,明確な因果律に基づかないランダムな変異というものはいかにもいかがわしく,そこが最も嫌われるのでしょう.しかしこれは西欧的知性が辿ってきた発展の歴史的経路によるものであって,西欧以外の知性にはまた別の考え方があるということに無頓着な西欧の知性の限界を示す事例にもなっているという気がします.

ダーウィン進化論をすでに知っていて,ランダムな変動という物理現象になじみがある人には素直に読み進められます.

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