日本の全産業の道しるべたる優書
能力構築競争−日本の自動車産業はなぜ強いのか 藤本 隆宏 (著),価格: \1,008
日本の自動車産業はなぜ世界的に強いのか,という素朴な問いに引きつけられてこの本を読み始めたのですが,著者30年の研究成果の含蓄はずしりと応えます.アメリカの経営コンサルタントがモノにするようなスマートな概念構築と変わり身の早い目先の追求とは全く異なり,まさに日本的な愚直で地道な探求が生んだ「能力構築競争」.これこそ,コンサルタントの受け売りで社内に害毒を流すエセ経営幹部に読ませたい本です.
製品アーキテクチャにおけるモジュール型とすり合わせ型の分類,部品間のインターフェースにおけるオープンとクローズドの区別は,今日の経営学において経営戦略や製品戦略を考える上で必須の概念となりましたが,その一端を担うのがこの著者らの研究成果であることはもっと知られて良いと思います.このあたりはこのブログで2004年12月11日にレビューした「モジュール化」に詳しいので,ぜひ合わせて読むことをお勧めします.
特に,日本の組織や制度がすり合わせ型アーキテクチャを持つ製品に強いという特性は,もっともっと吟味され議論されても良いはずです.いつも乗用車が代表例としてあげられていますが,私はデジタル一眼レフが旬の題材ではないかと思っています.画質のみならずシャッター音やホールド感などにもうるさい消費者に応えるためには,モジュール型アーキテクチャでは太刀打ちできないはずだからです.職人芸的な部品間のすり合わせが生む絶妙の製品バランスと付加価値(所有する喜び)は,日本の組織のお家芸と言っても良いのではないでしょうか?日本の組織はやたらと会議が多いと批判されますが,それはすり合わせのためにはある程度やむを得ない事なのかもしれません.
「競争は表層だけではなく深層でも行われている」それがこの著者の言う能力構築競争です.経営基盤競争と言い換えても良いのです.目先の表層の競争力ばかりに目が向いていた昨今のコンサルタントや経営者に言って聞かせたい内容ですね.この競争は長期にわたり戦われます.自動車産業の場合,その期間はすでに30年をゆうに超えました.これからが本当の正念場です.
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