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2005/01/22

血液型性格判断−最強の都市伝説

古くからヨーロッパでは人間の性格を多血質,憂うつ質,粘液質,胆汁質に分類し,それは例えばシュタイナー教育にも反映されているくらいですが,その原因が体液の性質であるとは考えておらず,多血とか粘液とか胆汁とかの言葉は,中世ではともかく現代では単なる記号に過ぎません.血液型性格判断なるものが存在しているのは少なくとも先進国では日本だけです.中国,台湾,韓国などアジアの国々では日本の影響があるかもしれません.

しかも欧米では自分の血液型を知る人は少なく,それが何型と知っても意に介さない,という現実は知っておく必要があるでしょう.ついでに付け加えると,酸性食品・アルカリ性食品信仰が存在するのも日本だけです.これは都市伝説では次点クラスですが,最近ではさすがに影が薄くなりました.なおWeb上のフリー百科事典を自認するWikipediaによれば,都市伝説と疑似科学は明確に区別されるべきであると主張し,血液型性格判断は都市伝説ではなく疑似科学に分類されています.

日本での血液型性格判断の発祥はよくわかりませんが,1971年に能見正比古(まさひこ)という在野の研究家が出版した「血液型でわかる相性」という本(確かデル単と同じ青春出版)が最初のまとまった出版物でしょう.能見正比古氏は理系の人だったらしく統計学には一応通じていたようで,統計資料と各種検定を駆使?して血液型と性格との関係性を研究していったようです.一種の疑似社会学ですね.あらかじめ結論を決めて都合の良い統計資料だけを集めれば,いくらでも恣意的な結論を引き出せることは良く知られている通りです.

その後この血液型シリーズは次々と数を増しましたが,能見正比古氏は1981年に死去.しかしすでにこの頃には女子学生にはかなりの割合でこの都市伝説は広まっていました.私の同級の女子学生がのめり込んでいたのを良く覚えています.一般に日本の若い女性は人間関係に悩みがちで,人間の性格に関する疑問を一見わかりやすく説明してくれる血液型性格判断に飛びついたことが,これほど流行した原因ではないかと思っていますが,それにしても統計と単純な図式化で「当たってる!」と思わせるテクニックはたいしたものです.

正比古氏の跡を継いだのは息子の俊賢(としたか)氏.なぜこういうものが世襲されるのかよく理解できませんが,開業医が世襲されるのと同様,これは儲かると気がついたのでしょう.現在の血液型性格判断はこの人によって伝道され広まったと言ってよいでしょう.今ではNPO法人 血液型人間科学研究センタがその活動の本拠地です.ブームに乗って多くの占い師たちも血液型に飛びつき,テレビの特集番組も多く,日本だけが異様な盛り上がりぶりです.

私の最大の疑問は,なぜ血液型のうちABO式だけを性格判断に使うのか?というものです.世の中でABO式とRh式が良く知られているのは輸血時に必須の確認事項だからです.ABO式やRh式は赤血球表面の抗原抗体反応に基づくもので血液の凝固に関係します.しかし人間の血液には凝固因子以外にもたくさんの種類の適合因子があります.例えば白血球と血小板にはHLAという適合因子が存在します.HLAはABO式のようにたった4種類しか種類が無い単純な適合因子ではなく,その分類は非常に複雑で,骨髄移植や臓器移植が難しいのは,これがぴったり合う人がなかなか見つからないからです.

適合因子以外にも体液を分類するための指標は無数に作ることが出来るはずです.健康診断で数値化されるさまざまな種類の指標を組み合わせれば,
  「あなたは赤血球が少なくMCHCも低くて運動に不向きだからナマケモノ型」
  「あなたはγ-GTPが高いから意志薄弱のアル中」
などといくらでも差別的分類を作り出せます.

私は血液の凝固などよりは,脳細胞での糖の代謝や神経伝達に関係する因子のほうが,脳の機能の一側面である「性格」に反映されやすいと思うのですが,なぜか凝固因子の一点張り.最近ではB型の性格が揶揄されることに堪忍袋の緒が切れた一部の心ある人たちからの反撃が始まりましたが,この都市伝説は大変強力で,そう簡単に収まるものではなさそうです.なにより儲かりますからね.

参考: Wikipediaの血液型性格分類は必読の価値があります.

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