Global Business Realistの影響力は本当か?
最新アメリカの政治地図 講談社現代新書 園田 義明(著),価格: \756 (税込)
私が苦手なのは登場人物がやたらと多い推理小説なのですが,この本はそれに当てはまります.先進国のパワーエリートたちがいかにつるんでいて,どのような勢力に分類されており,どのような思想背景で影響力を行使し合っているのか,ということが事細かに解説されています.例えば,アメリカのブッシュ大統領の外交政策に大きな影響力を持つと言われるネオコンの系譜と人脈,Global Business Realistと呼ばれる冷徹な国際ビジネス界の人脈,そしていまだに宗教勢力としての影響力を保ち続けるカトリック,などなど.
これらの情報は大変面白いのですが,状況証拠からしか検証ができないという本質的な弱点は解消されていないので,私にとっては消化不良のイライラが募るばかりです.パワーエリートたちが特権的・排他的なクラブを作るのは,ある意味自然の成り行きだと思うのですが,彼らの影響力はどれほどのものなのでしょうか?筆者は地政学にかなり重きを置いているようですが,地政学はすでに過去の遺物ではなかったのでしょうか?Sea Power とか Rim Land という概念が本当に通用するのでしょうか?国際的なパワーゲームの背景に迫ろうとする筆者の意欲は高く買いますが,検証のための努力が相当に必要でしょう.
著者はネオコンとアメリカのキリスト教原理主義者の台頭に警鐘を鳴らし,グローバルビジネスリアリストと道徳勢力としてのカトリックをやや好意的に扱っているように見えます.このあたりは国際関係論の専門家のコメントも読んでみたいところです.
なお,この著者が寄稿を続けているWebサイト萬晩報はオピニオンサイトとしては一見の価値があります.このブログのおすすめサイトからもリンクを張ってありますので,ご覧ください.
| 固定リンク | 0
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 江戸の情緒を深く味わえる(2022.05.02)
- ついに読了!一般相対性理論(2019.10.31)
- 現代的に再構成された熱力学(2019.06.03)
- 引退して味わう特殊相対性理論(2018.09.16)
- 気候変動の標準教科書(2015.06.21)
コメント