アメリカのバルカン化
昨日ポストした書評への追加です.
2月6日の朝日新聞の書評「分裂するアメリカ社会」(堀内一史著)の評(宮崎哲弥)のなかに注目すべき言葉を発見しました・・・国家に対する神の超越性を欠落させた「市民宗教」は,「国家の自己偶像化」の装置に堕する.
市民宗教とはアメリカのキリスト教全般のことを指しています.うーむ,ヨーロッパのように千年以上も教会権威と世俗権力が争い,その過程で両者とも時には辛酸をなめながら,自らを鍛え上げてきた歴史はアメリカにはありませんね.なるほどと思いました.
ところで,バルカン半島はもともとは宗教の違いで分裂したわけですが,アメリカのバルカン化はそれとは異なる軸で進んでいるように思います.宗派の違いからくる宗旨の争いではなく,むしろ宗教をどれほどの重みに位置づけるかの差のような気がします.進化論論争など,われわれの眼からは気違いじみて見えますが,これを真面目に論争しなければならないところに,アメリカ知識人の悩みがあるのではないでしょうか?この本を読んでいるわけではないので,とんだ的外れなコメントかもしれませんが.
この日の朝日にはもう一つ注目すべき記事があります.ダボス会議です.日本の政治家の影が薄いことを嘆く内容ですが,面白いエピソードがあります.民主主義や資本主義を絶対視して世界に輸出しようとするアメリカに対して,マレーシアのナジブ副首相が述べた言葉「民主主義は道具であり,服従すべき宗教ではない」,これも非宗教的民族である日本人には考えさせられる言葉です.
もっともダボス会議でのディベートは,一つの強烈なビジョンや哲学を堅持する精神構造が背景に無いと難しいのではないかと思います.何といっても日本は無常感の国ですから,そういう絶対的なものを自分の中に持ち,それにある意味依存して生きていくことは稀でしょう.従ってダボス会議のような場はそもそも土俵が不利なわけで,地上のあらゆる宗教や哲学すらぶっ飛んでしまうくらいの強烈な無常感を味わえるような装置が必要ではないか,例えば意思疎通の出来ない宇宙生物の来襲,などと思ったりしてしまうのです.極端かなぁ?
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