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2005/02/12

日本官僚制の生理と病理の診断書

技術官僚―その権力と病理 岩波新書 新藤 宗幸(著),価格: \735 (税込)

Gijutsu_Kanryoひょっとすると技術官僚としての人生を送っていたかもしれない自分自身の過去を省みつつ,そして実際に技術官僚としての人生を送っている多くの友のことを思いながらこの本を読みました.

旧厚生省の薬害エイズ事件や農水省の諫早湾埋め立て工事など,官僚の意図的不作為や暴走は,日本全体に官僚に対する不信感を決定的に植え付けました.その中心にいたのは,日ごろ表に出てくることの少ない技術官僚たちです.技術官僚とは,国立の研究所(今は独立行政法人化されました)にいる研究者たちのことではありません.中央官庁や地方の出先機関,地方自治体などに勤め,土木,農林水産,環境,保健衛生など技術的知識が要求される仕事に携わる官僚のことです.

この本の良さは,日本の官僚制度とその一つの断面である技術官僚を,偏見や先入観に囚われずに分析することに成功した点に尽きます.「技官の冷遇」や「技官の王国」が皮相な見方に過ぎず,実際は官僚制度全体の中で文官と技官がうまく共生し組織を維持発展させてきたという著者の見方こそ,最も現実的かつ経済合理性も満たした捉えかただと共感できます.これは政府官僚制のみならず,官僚機構と化した大企業にも多く当てはまる事実でしょう.

ところで私の経験から付け加えさせていただくと,霞ヶ関には真に技術に精通した技術官僚は不在なのです.彼らは特定分野の専門家ではありません.そうならないように2,3年ごとにローテーションされてしまうので(高級官僚が大好きな総合職幻想)本当の専門家が育たないのです.これが,ろくな科学技術政策を立案できない日本の行政府の最大の原因です.技術の目利きが出来てなおかつ政策立案も出来る「専門家」の育成が全く出来ていません.与えられた目標をいかに効率よく達成するか(Operational Effectiveness)が問われた高度成長時代はそれでも良かったのですが,いかに優れた戦略を立案できるか(Strategic Positioning)が勝負の時代にはつらいものがあります.

さて,終章には著者の改革への提案がかなり具体的に書かれています.これは一つ一つ検討に値しますが,そのどれをとっても明治以来の「制度」の大変革にならざるを得ません.これらを検討するためには,制度とは何か,それを変えるとはどういうことか,変えるためにはどういうアプローチが効率的で成功確率が高いのか,という観点が必要になります.青木昌彦元スタンフォード大教授らが創始した「比較制度分析」の手法が生きる分野ではないでしょうか.RIETI(経済産業研究所)などで取り上げられ,議論が深まることを希望します.

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