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2005年3月

2005/03/26

喪失感にさいなまれるアルバム

Time After Time [FROM US][IMPORT] Eva Cassidy, 価格: \2,045 (税込)

Eva_Cassidy-Time_After_TimeEva Cassidy は1996年に33歳の若さでこの世を去りました.私がこのアルバムを初めて聴いたときには,すでに彼女が癌で夭逝したことを知った後だったので,一曲一曲を聴くたびに何と言う才能を失ったものかと,喪失感に苛まれながら聴いたことが思い出されます.夭逝したために寡作だったということ以上に,もうこれ以上彼女の新作が出てくることは無いという厳粛な事実が,聞くものの姿勢を正さざるを得ません.彼女の音楽性に触れた人たちはおしなべて,得がたい至福と,それがもう適わない悲哀とを同時に語っています.

この人の音楽をカントリーであると分類する勇気のある人はおそらくいないのではないかと思いますが,とにかく彼女独自の音楽性は世界中の人々を魅了し続けていることは間違いありません.どんな曲でも彼女が唄えばそれは彼女独特の世界にある音楽になってしまうという不思議な力を持っていたアーティストでありました.ジャズ,ブルース,カントリーという分類は彼女の前では意味を成しません.この才能は昨今の音楽シーンでも最も惜しまれるべきものだったことは異論の余地がありません.

彼女が Washington D.C. というある意味特殊な地域で活動していたことが,良かったのか悪かったのか,これが Nashville だったらどうだったのか,大切なものを喪った後で,思いは尽きません.

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アオモジ開花

Spring_26Mar2005_032m
我が家の庭木の中で最も早く開花するのは先週ポストしたトサミズキですが,二番目はこのアオモジです.秋頃から丸い木の実のようなつぼみが房になって垂れ下がるのですが,3月も下旬になってやっと開花します.この花が咲くと蜂たちは急に忙しく動き出します.

一昨日の夜中に寒気が入り込んで雹が降り,昨日は朝から夜までとても風が強くて寒かったのですが,アオモジが開花したからにはいよいよ春です.カイドウの蕾がほころびかけていますし,ハコネウツギも新芽が出始めました.日差しも痛いくらいに強いです.

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2005/03/21

トサミズキ開花

Tosamizuki_21Mar2005_030m今日はようやく春らしい良いお天気になりました.気温も高めで16度くらいまで上昇.日なたで庭仕事をしていると汗ばむほどです.1週間ほど前からほころび始めた庭のトサミズキの花がようやく開花といえる状態になりました.花穂はもっと長く伸びて優雅な形になります.

他の花の開花も秒読み状態です.近所の斜面ではついにコブシがほころび始めました.東京ではすでに満開なので1, 2週間は遅い感じです.虫たちも活動を始めたようで庭に出てみると羽音を感じます.モンシロチョウも飛び始めました.ようやく春ですね.花粉はいやだけどやっぱり春はいいなぁ!

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2005/03/20

もっと知られてよい男性カントリーポップの実力派

40 #1 Hits [ORIGINAL RECORDING REMASTERED][BEST OF][FROM US][IMPORT] Ronnie Milsap, 価格: \2,735 (税込)

ronnie_milsap40_1_hitsRonnie Milsap ほどの実力ある歌手が日本でほとんど知られていないのは本当に残念です.そもそもカントリーという音楽ジャンル自体が日本ではマイノリティであることが最大の原因ですが,アメリカの音楽シーンを理解するためにはカントリーを避けて通ることはできません.そしてこの歌手は70年代から大ヒットを飛ばしてきた実力派.グラミー賞7回,CMA(Country Music Association)大賞8回という実績がその力量を物語ります.ですから日本でも洋楽ヒットチャートを長年聞いている人ならば,何度かは行き当たっていたはず.このアルバムは2000年のリリースなので,まさに集大成といってもよい愛蔵版です.

一言にカントリーといっても実にさまざまなバリエーションがあるのですが,彼はそれを幅広く器用にこなします.それが商業的にも当たりを取れるゆえんでしょう.声は豊かで張りがありしかも伸びやか.まさに音楽産業としてのカントリーのメインストリームにぴったりです.このアルバムはお得な2枚組みで,合計で43曲も収録されているのですが,その第一曲目の"Pure Love"はまさにこの歌手を象徴するスタンダードナンバーです.私はこの曲を80年代から車の中で何100回と楽しみました.


Live [2002][LIVE][FROM US][IMPORT] Ronnie Milsap, 価格: \2,166 (税込)

Ronnie_Milsap-Liveついでにライブアルバムを紹介しましょう.これはベストヒットばかりを集めたライブアルバム.いわゆるよくあるライブアルバムなのですが,20年間もヒットを飛ばしてきた人のヒット曲をコンパクトにライブで聴ける,27曲も聴けてこれも大変お得なアルバムです.リリースは2002年ですから上のアルバムの2年後,これも愛蔵版になりそうです.そのうち Box Set などの発売も予想されますが,ライブ版は今買っておくべきかもしれません.

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2005/03/19

激動の時代の庶民を淡々と描く長編

活きる 特別版 チャン・イーモウ (監督), 価格: \2,940 (税込)

Liveチャン・イーモウ監督の作品.94年のカンヌでは審査員特別賞と主演男優賞を受賞したそうです.それまでの赤いコーリャンや菊豆などで見せた強烈な色彩やあくの強いこってりしたストーリーとは一味変わって,毛沢東時代の中国を一庶民の視点で淡々と描いた名作です.長編にもかかわらず中ダレしないのはこの監督のストーリー・テリングのうまさでしょう.

賭博で財産を失った資産家の男は妻から見捨てられ,特技の影絵芝居の旅芸人として生計を立てます.途中,国民党と共産党の内戦に巻き込まれ,たまたま共産党に娯楽を提供したために,帰郷して家族と再会した後も革命の混乱を生き延びることができます.共産党政治の不条理や文化大革命の狂気もエピソードに取り入れられているのが目を引きます.

この映画の最大の良さは,強烈なメッセージや問題提起をするのではなく,時代に翻弄されながらもどうにかこうにか懸命に生きていく庶民の「活きる」さまを,見るものに共感を与えながら淡々と描いた点でしょう.どんなにつらいことがあっても明日は来る,皆で力を合わせて活きていこう,きっと今より良い明日が来る,というのが主題でしょうか.

コン・リーは庶民の妻を見事に演じきっていますし,主演男優のグォ・ヨウは愚かな資産家から家族に尽くす父親,そして最後は母のいない孫を育てるよき祖父を好演しています.この二人,なんとなく桃井かおりと竹中直人に見えてしまうのは私だけでしょうか?それから子役の好演が光っています.この監督は子役の使い方が本当にうまいですね.

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電波の独占はどこまで許されるか

ニッポン放送やフジテレビがライブドアに対して反論する際に必ず出てくるのが「放送事業に要求される公共性と倫理性」です.人権無視のワイドショー,タレント(才能)の無い「タレント」たちがおしゃべりやゲームに興じるだけの娯楽番組,温泉と食い物だけの欲望刺激番組などが中心の CX(フジテレビの略称)にこんなことを言われたくはないぜ!と思うのは私一人ではないでしょう.酷な言い方かもしれませんが,オールナイトニッポンの人気パーソナリティ(確か火曜日)だったカメこと亀渕昭信社長が神妙な顔でのたまふのは,当時のリスナーには滑稽にさえ聞こえます.しかもフジサンケイグループは財界のマスコミ対策として設立された出自を持っており,公共性にも疑問符が付きます.これについては Wikipedia のニッポン放送のうち「ニッポン放送の経営権」の項を参照してください.

ニッポン放送やフジテレビに限らず放送というのは完全な寡占業界であり,テレビに関して言うと広告収入を5社で分け合える大変おいしい業界であることは間違いありません.新規参入は大変難しく,それは電波の周波数が限りある資源だということ以上に,情報は統制しなければならないという当局の意思の現われだと思います.これに対してインターネットの世界は,どこにも中心が無く統制も利かない,誰でも新聞社や放送局になれる混沌とした世界です.当然エロいコンテンツはあふれかえり公共性もへったくれもありません.何でもありです.しかも2004年にインターネット広告費がラジオ広告費を追い抜いたことからわかるように,広告市場のパイの取り合いに関して当面は競合関係にあります.

すでに資源を独占している既存勢力とライブドアのような新興勢力との間でどのような資源再配分を行うかが,この議論の最終的なアウトプットです.携帯電話の800MHz帯をめぐりソフトバンクが強硬に配分を求めている状況はあまり報道されませんが,本質的には同じ議論です.この議論の論点は二つです.

独占と「公共性と倫理性」はセットのはずなので,放送会社やインターネット企業の論理がどこまで「公共性と倫理性」と両立できるかが最初の論点です.一つの極端なモデルは国営放送である NHK ですが,これとて受信料を国民から徴収するのは行き過ぎた独占だという疑問を国民が持つのは当然で,その潜在的な疑問はきっかけさえあれば直ちに受信料不払いという行動を誘発します.

第一の論点は当然のことながら条件付独占と競争的非独占の共存という形に落ち着くはずなので,競争的非独占の領域における競争のルールに関する議論が第二の論点です.

あまり競争的非独占を強めて混乱が起きてもまずいのですが,情報を公共のメディア(電波のみならずインターネットも疑いなく公共のメディアであり,IPアドレスやネットワーク帯域は限りある公共の資源です)に発信する権利について,広い可能性を認めた上で議論が始まることを期待します.ライブドアはその最初のドアをこじ開ける役割で討ち死にするかもしれませんが.

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2005/03/18

黄煙禍

今年は観測史上最高の杉花粉の当たり年らしいのですが,自分自身がそれほど花粉には敏感ではないためにあまりピンとは来ていませんでした.しかし朝から気温が急上昇した今日,電車の窓からすさまじい光景を目にしました.ちょうど特急電車に乗って田園地帯を走っていたのですが,周辺の杉林の樹幹あたりから黄色い煙のようなものが幾筋も立ち昇っているのです!これでは山火事と勘違いして通報されるのも無理ありません.当然地平線近くは花粉でもやがかかった様になっています.空気中の花粉の濃度はさぞ高かったことでしょう.この私でも鼻や目がむずがゆく感じられました.写真が撮れなかったのが残念.

しかし,昔の杉の屋敷林に囲まれた家では,花粉の季節には板の間にうっすらと花粉が積もっていたのに花粉症の人は少なかったと聞くと,何か他の原因との複合作用を疑いたくなります.ディーゼルエンジンから排出される微粒子が疑われていますが,疫学的には一理あります.

治療薬や予防薬を発明できたら億万長者間違いなしなのですが.

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2005/03/14

経営コンサルタントのノウハウ満載

プロフェッショナル・プレゼンテーション アクション・ラーニング・シリーズ 土井 哲 (著), 高橋 俊介 (著), 価格: \2,100 (税込)

SatoshiDoi_ShunsukeTakahashi-Professional_Presentationこれはなかなかのお勧め本です.なぜならば普通門外に出てくることが少ない経営コンサルタントのノウハウがぎっしり詰まった本だからです.著者の二人はともにマッキンゼーの卒業生.さすがプロのコンサルタントとして実務経験を積んだだけのことはあります.もっともマッキンゼーの卒業生が書いたプレゼンテーションスキルの教科書は多いので,どれを読んだらよいのか迷う人も多いでしょう.しかしこの本は買って損はしません.

先日ミントの定番本を紹介しましたが,本書のほうが同じ内容をはるかにわかりやすく説明してくれるのでお勧めです.例えばある主張の根拠を構成する際の必須条件 "MECE (Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive) モレ無くダブリ無く" の説明は日本人向けに大変丁寧です.また一つのことを複数の原因に分解してそれぞれについて分析を行うという手法も繰り返し丁寧に説明され,これは実践でも大変役に立ちます."戦略分析の3C" とか "マーケティングの4P" などの業界定番のノウハウも教えてくれるので,なかなか実用的でもあります.

プレゼンテーションは目を引くビジュアルを作り雄弁に話すテクニックだと思っている人は,ぜひこの本を読んで論理的思考様式を身につけましょう.そうなってこそ PowerPoint が使いこなせるようになります.

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2005/03/13

論理的プレゼンテーションのバイブル本

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則
バーバラ ミント (著), Barbara Minto (原著), 山崎 康司 (翻訳), グロービスマネジメントインスティテュート, 価格: \2,940 (税込)

Barbara_Minto-The_Minto_Pyramid_Priciple学校や会社で昔は行なわれなかったが今は盛んに行なわれているものの筆頭は"プレゼンテーション"でしょう.調査・研究・業務の報告から問題提起,新規提案など非常に多岐にわたってプレゼンテーションが行われるようになりました.しかし日本では PowerPoint というツールの使用が先行し,プレゼンテーションにとって本質的に必要な知的スキルの導入と教育はいまだになおざりにされています.あなたも PowerPoint を文字や図表のレイアウトツールとしてしか使っていないのではありませんか?例えば PowerPoint にはなぜ"アウトライン"という機能が備わっているのでしょう?アウトラインを入力するとスライドにその内容が階層構造ごと自動的に反映されるのはなぜでしょう?これは西欧の思考様式がそのまま反映された知的ツールになっているのですが,その思考様式とはどのようなものでしょう?日本人がそれをうまく使うことは出来るのでしょうか?

プレゼンテーションのバイブル本と言えばこの本をあげざるを得ません.あまりにも有名な"ピラミッド原則"の創始者が書いた定番です.このピラミッド原則こそ,論理的に思考し説得力あるプレゼンテーションを行うための最も本質的な思考様式です. PowerPoint はそれをPC上で効率的に行うためのツールに他なりません.

内容は高度かつ網羅的・・・なわりには翻訳が硬いのでかなり読みにくく内容を頭に入れるにはひと苦労します.私自身,買ってみたものの読みにくいので数年間書棚に放っておいたことを告白します.次にご紹介する日本人が書いた本のほうがはるかにわかりやすいと思います.原典にあたらないと気が済まない人にはお勧めです.

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2005/03/12

戻ってきてほしい早熟の天才

Blue [FROM US] [IMPORT] LeAnn Rimes, 価格: \720 (税込)

LeAnn_Rimes-Blueトラディショナル・カントリーでデビューした早熟の天才歌手 LeAnn Rimes のデビューアルバム.録音は彼女が何と13歳のとき!このアルバムを聴けばすぐにわかりますが,何という歌唱力!これが13歳の少女のなせる業でしょうか?5曲目の"Honestly"はそれをまざまざと見せつける名曲です.まさに早熟の天才.これから人生経験を積んで情感表現を磨いていけば,どんなすごい歌手になるのか恐ろしいくらいの可能性を感じます.

しかし大変残念なことに,彼女はよりメジャーなカントリーポップへ転進.激戦区で果敢に活躍中です.しかしこの分野は Faith Hill に代表されるスーパースターがごろごろしているところ.歌唱力だけではのし上がれません.モデル並みのルックスやセクシーアイドルとしての資質もすべて兼ね備えなければトップスターになれない大変なところ.ルックスではトップクラスに及ばない彼女のこれからを心配しているのは私一人ではないでしょう.

でも,限界を感じたらいつでもカントリーに戻ってきてほしい,きっとカントリーファンは大歓迎です.望むらくは Alison Krauss らが切り開きつつあるブルーグラスの革新に参加してくれると,ブルーグラスに対する世間の目が覚めること請け合いです.

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人類が次の千年紀を生き延びるために

自然再生―持続可能な生態系のために 中公新書 鷲谷 いづみ(著), 価格: \756 (税込)

Shizen_Saisei20世紀以来,人類は地球生態系を極めて急速に破壊し続けています.このまま行けば,人類のうち30世紀を見ることが出来る者は少数でしょう.人類がもう取り返しの付かないところまで来てしまったと感じているのは私一人ではないはずです.

20世紀までは,生態系を破壊してもその代償として手に入れた豊かさに目を眩まされていただけで済みましたが,21世紀以降は,悪化した環境の影響が直接,生物としての人類に及ぶことになるでしょう.その深刻さの最良の指標が生物多様性であることには,すでに全世界的なコンセンサスがあります.

著者の鷲谷教授は,人類が生態系に働きかける二つのやり方,征服型戦略と共生型戦略について述べた後,積極的共生型戦略が今後とるべき道であると述べます.それは科学的根拠を持ち,社会の各階層が共に参画して自然との共生を積極的に推し進めるやり方です.いくつかの具体例は将来に希望を与えてくれますし,自らも参加してみたいという気を起こさせます.

ただし本書は,生物多様性になじみの無い人向けに長い前置きを持っており,本論であるはずの積極的共生型戦略の中身が量・質ともに不十分なのが惜しまれます.特にタイトルである自然再生に対してどのように社会経済的合理性を与えていくのか,今後の経済学の取り組みが急務です.それが出来なければ「持続可能性」は絵空事だからです.また教育啓蒙戦略や思想浸透戦略についても言及が欲しかったですね.

このレビューを書きながら思ったのですが,生態学的問題を議論する際に,非専門家には時定数の概念が無いことが多いことがコミュニケーションを阻害しているのではないでしょうか?同じ量の生態学的変化が自然条件で数万年かかる場合と人為により数十年しかかからない場合とでは,その変化の速度は千倍違います.その速度の差の意味を噛んで含めるような解説の仕方も必要だったのではないかと思います.

いずれにせよ,自然を積極的に取り戻そうというマインドを持った解説書が出版されたことはとても素晴らしいことです.著者の長年のフィールドでの研究経験が生きた優書です.

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2005/03/06

日本人の精神構造を思い知らされる

昭和史 1926-1945 半藤 一利 (著),価格: \1,680 (税込)

Showa_Shi_1926-1945すでにマスコミの書評などで評価が高かったので,これまで親や年長の知人などから聞いていた昭和の歴史がどのように修正されるのだろうかと思って読み始めました.結論から言うと大変すばらしい昭和史の語りでした.特に時代を動かしてきた政治家や軍人たちが個人名で現れ,彼らがどのような性格と考え方の持ち主で,どのような場面でどのように行動したかということが細かく書いてある,その点を高く評価したいと思います.ハルバースタムの語り口に通じるところがあります.ただしその視点は市井のジャーナリストの視点であり,それが公平にすべてを見ているとは限らない,それをわかった上で読み進める必要はあると思います.

この昭和史で新たに知ったことは以下の三点です.まず「統帥権干犯」という事件が起こり,その後長らく天皇制と議院内閣制のあり方を大きくゆがめ,軍部に有利な状況が生まれたことです.天皇の側近たちが軍部から胡散臭く思われ,軍部のテロなどの恐怖政治もあって次第に天皇側近の力が失われたこともその一環と捉えることが出来ます.

第二は戦争をはやし立てた新聞の役割です.どの新聞も無知な大衆を煽り国中を好戦的な雰囲気に染め上げた,その責任の重さが語られています.新聞は自らの売り上げを増やすために威勢のいい記事を書き,かねや太鼓を鳴らして世界情勢に疎いアジア辺境の国民を煽ったわけです.私は当時の新聞は陸軍と同じくらい国民に道を誤らせた罪があると思っています.帝都東京の住民であれば口コミでさまざまな本音の情報に接することが出来たのですが,当時の日本は今の中国や北朝鮮のように言論統制が行き届いた国家だったために,特に地方でこの影響が顕著に出ました.例えば終戦直前の東京は市民が皇居に乱入しかねないほど険悪な雰囲気だったことを年配の知人から聞き知りましたが,都民以外は知る由も無かったはずです.

第三はやはり何といっても巨大官僚組織である陸軍,海軍の組織としての経営の質の悪さです.重大な戦略的決断をしなければならないときに幹部が実にいい加減な決断をしており,これは著者の半藤さん自身が繰り返し「あほらしい」と述べている通りです.しかも軍として最も重要な戦闘実務に関しても,兵士の装備は日露戦争時代から進歩せず,作戦面でも,メンツや幹部の人間関係を優先させるあまり,ノモンハンやインパールのように誰が見ても質の悪い判断を繰り返す愚を冒しています.これらは戦後の官庁や大企業などにも引き継がれている面があります.道路行政はその最たるものでしょう.しかし著者の「あほらしい」という言葉はそこで読者に思考停止を強いており,それがなぜ起きたのかをしつこく,粘り強く分析するには至っていません.これがハルバースタムとの最大の違いなのではないでしょうか?

これらから浮かび上がってくるのは日本人の精神構造です.著者自身が述べている通り,国民的熱狂に浮かれて冷静な判断が出来なくなる,観念的抽象的な思惟にはまり込んでデータに基づく冷静な分析と判断が出来ない,小集団エリート主義の弊害などですが,これらは中山治さんの「戦略思考が出来ない日本人」と合わせて読むと,さらに深く考えるきっかけとなることでしょう.

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2005/03/05

骨太の女性ヴォーカルの心地よさ

Wild Angels [FROM US][IMPORT] Martina McBride, 価格: \1,925 (税込)

Martina_McBride-Wild_Angels米国Amazon.comのカントリーアルバムを渉猟していて出会った掘り出し物のアルバム.もう何年も繰り返し聴いていますが飽きることはありません.Martina McBrideは十分な実力とキャリアを兼ね備えた,おそらく今もっとも油が乗っているカントリー女性ボーカリストの一人でしょう.カントリーポップというよりはカントリーロックに分類したほうが良いのかもしれません.

ノリがよく骨太の女性ボーカルは最近の日本の音楽シーンではなかなか聞かれなくなりましたが,この人の歌声は聴いていて実に心地よいのが特徴です.なぜかと考えてみると,この人の歌い方は歌い放つのではなく,丁寧な情緒表現を歌い込めているからではないかと思います.アルバムタイトルの"Wild Angels"はまさにそんな彼女を代表する一曲."Phones are ringin' all over town"も丁寧に歌い込まれた名曲です.

売れっ子らしくアルバムは多数出ており,私もこれまでに7,8枚は買っていると思いますが,これからも続々と出されることでしょう.ただしジャケットは良いと言えないものが多いのが残念.特にこのアルバムのジャケット写真は内容には不釣合いだと思います.

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