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2005/03/12

人類が次の千年紀を生き延びるために

自然再生―持続可能な生態系のために 中公新書 鷲谷 いづみ(著), 価格: \756 (税込)

Shizen_Saisei20世紀以来,人類は地球生態系を極めて急速に破壊し続けています.このまま行けば,人類のうち30世紀を見ることが出来る者は少数でしょう.人類がもう取り返しの付かないところまで来てしまったと感じているのは私一人ではないはずです.

20世紀までは,生態系を破壊してもその代償として手に入れた豊かさに目を眩まされていただけで済みましたが,21世紀以降は,悪化した環境の影響が直接,生物としての人類に及ぶことになるでしょう.その深刻さの最良の指標が生物多様性であることには,すでに全世界的なコンセンサスがあります.

著者の鷲谷教授は,人類が生態系に働きかける二つのやり方,征服型戦略と共生型戦略について述べた後,積極的共生型戦略が今後とるべき道であると述べます.それは科学的根拠を持ち,社会の各階層が共に参画して自然との共生を積極的に推し進めるやり方です.いくつかの具体例は将来に希望を与えてくれますし,自らも参加してみたいという気を起こさせます.

ただし本書は,生物多様性になじみの無い人向けに長い前置きを持っており,本論であるはずの積極的共生型戦略の中身が量・質ともに不十分なのが惜しまれます.特にタイトルである自然再生に対してどのように社会経済的合理性を与えていくのか,今後の経済学の取り組みが急務です.それが出来なければ「持続可能性」は絵空事だからです.また教育啓蒙戦略や思想浸透戦略についても言及が欲しかったですね.

このレビューを書きながら思ったのですが,生態学的問題を議論する際に,非専門家には時定数の概念が無いことが多いことがコミュニケーションを阻害しているのではないでしょうか?同じ量の生態学的変化が自然条件で数万年かかる場合と人為により数十年しかかからない場合とでは,その変化の速度は千倍違います.その速度の差の意味を噛んで含めるような解説の仕方も必要だったのではないかと思います.

いずれにせよ,自然を積極的に取り戻そうというマインドを持った解説書が出版されたことはとても素晴らしいことです.著者の長年のフィールドでの研究経験が生きた優書です.

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