電波の独占はどこまで許されるか
ニッポン放送やフジテレビがライブドアに対して反論する際に必ず出てくるのが「放送事業に要求される公共性と倫理性」です.人権無視のワイドショー,タレント(才能)の無い「タレント」たちがおしゃべりやゲームに興じるだけの娯楽番組,温泉と食い物だけの欲望刺激番組などが中心の CX(フジテレビの略称)にこんなことを言われたくはないぜ!と思うのは私一人ではないでしょう.酷な言い方かもしれませんが,オールナイトニッポンの人気パーソナリティ(確か火曜日)だったカメこと亀渕昭信社長が神妙な顔でのたまふのは,当時のリスナーには滑稽にさえ聞こえます.しかもフジサンケイグループは財界のマスコミ対策として設立された出自を持っており,公共性にも疑問符が付きます.これについては Wikipedia のニッポン放送のうち「ニッポン放送の経営権」の項を参照してください.
ニッポン放送やフジテレビに限らず放送というのは完全な寡占業界であり,テレビに関して言うと広告収入を5社で分け合える大変おいしい業界であることは間違いありません.新規参入は大変難しく,それは電波の周波数が限りある資源だということ以上に,情報は統制しなければならないという当局の意思の現われだと思います.これに対してインターネットの世界は,どこにも中心が無く統制も利かない,誰でも新聞社や放送局になれる混沌とした世界です.当然エロいコンテンツはあふれかえり公共性もへったくれもありません.何でもありです.しかも2004年にインターネット広告費がラジオ広告費を追い抜いたことからわかるように,広告市場のパイの取り合いに関して当面は競合関係にあります.
すでに資源を独占している既存勢力とライブドアのような新興勢力との間でどのような資源再配分を行うかが,この議論の最終的なアウトプットです.携帯電話の800MHz帯をめぐりソフトバンクが強硬に配分を求めている状況はあまり報道されませんが,本質的には同じ議論です.この議論の論点は二つです.
独占と「公共性と倫理性」はセットのはずなので,放送会社やインターネット企業の論理がどこまで「公共性と倫理性」と両立できるかが最初の論点です.一つの極端なモデルは国営放送である NHK ですが,これとて受信料を国民から徴収するのは行き過ぎた独占だという疑問を国民が持つのは当然で,その潜在的な疑問はきっかけさえあれば直ちに受信料不払いという行動を誘発します.
第一の論点は当然のことながら条件付独占と競争的非独占の共存という形に落ち着くはずなので,競争的非独占の領域における競争のルールに関する議論が第二の論点です.
あまり競争的非独占を強めて混乱が起きてもまずいのですが,情報を公共のメディア(電波のみならずインターネットも疑いなく公共のメディアであり,IPアドレスやネットワーク帯域は限りある公共の資源です)に発信する権利について,広い可能性を認めた上で議論が始まることを期待します.ライブドアはその最初のドアをこじ開ける役割で討ち死にするかもしれませんが.
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コメント
補足です.さすがに RIETI (経済産業研究所) はとっくの昔に問題提起をしていました.例えばこれ
http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0107.html
政策シンポジウムのページがこれ
http://www.rieti.go.jp/jp/events/03120401/info.html
総務省の資料からは電波行政の規制緩和の方向性が見て取れますが,最近のソフトバンクの噛み付き具合に応えられますかね?
投稿: 俊(とし) | 2005/03/20 13:26
ソフトバンクは3月末に総務省に対する提訴を取り下げたそうです.でも800MHz帯をあきらめたわけではないでしょう.作戦変更ということでしょうか?
投稿: 俊(とし) | 2005/04/03 08:52