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2005/05/28

タイトル負けのマクロ金融政策批判

金融立国試論 光文社新書 櫻川 昌哉 (著),価格: \735 (税込)

Kinyu_Rikkoku_Shironオーバーバンキングから出発して日本の現在の金融状況を分析し,そこからマクロ金融政策の批判と提言を行っている新書です.論旨は明解ですしそこから導き出される提言も筋が通っているように思えるのですが,データの引用と分析に漏れが無いのか気になるところです.というのも,マクロ経済のデータなどというものは,誰かが責任を持って網羅的系統的に集めているわけでも,集めることが出来るわけでもないので,それに立脚した論理展開がどれほど的を得ているのか大変心配になるからです.少なくとも郵政改革の議論では地方経済の比重が高まるので,タンス預金やアングラ経済の規模の推定が必須です.

著者が言うように不良債権の処理やペイオフが厳格に実行に移されればマクロ経済が健全な姿になるのかといえば,そこには大きな不確実性が残ると言わざるを得ません.ある国の国民経済にとってどれほどのリスク許容度があるのかは,その国の国民性や文化や歴史経路によって大きく異なるはずだと私は思うからです.この国の民間セクターで金融資産の大部分を持っているのは中高年の世代ですが,彼らは非常にリスクを嫌うことで特徴付けることが出来ます.理由の分析は難しいのですが,一つにはこの国の国民は近代に入ってから政府に裏切られ続けた苦い歴史を持っているからではないか,戦争前後に国家が国民の生命と財産を守ってくれなかったことが身に染みているからではないでしょうか.その記憶が残っている間は政府の政策を信用して自らの金融資産を付託することには強い抵抗を示すはずです.そのような場合,マクロ経済のきれいな結論を実行しようとしても,強い抵抗が待っていると考えざるを得ません.

タイトルの"金融立国試論"から本書の中身を想像するのは困難ですし,タイトルの意味する領域にたどり着く前に紙数が尽きてしまっているので完全にタイトル負け.これは著者の責任なのか編集者の責任なのか,大変残念です.金融資産を活用した国家戦略でも出てくるのかと思って買った私が馬鹿でした.

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