ハルバースタム渾身の力作
静かなる戦争(上)-アメリカの栄光と挫折 デイヴィッド・ハルバースタム (著), 小倉 慶郎 (翻訳), 三島 篤志 (翻訳), 価格: \1,890 (税込)
私がハルバースタムの初期の傑作 "ベスト・アンド・ブライテスト" を読んだのは今から30年ほど前の大学生のときです.当時はベトナム戦争終結からあまり時間が経っておらず,なぜアメリカ最高の頭脳がベトナムの泥沼に引きずり込まれたのか(という言い方は被害者意識が表に出て適切ではありませんが)という視点は実に時宜を得たものでした.しかも膨大な取材をもとにして淡々と事実を描き,しかし本質を鋭くえぐっていくジャーナリズムの手法は当時の日本には無いもので,ハルバースタムというジャーナリストが世界中で注目されることになりました.
さて本書(上巻)はベトナム戦争終結から約20年後,ジョージ・ブッシュ(父)からビル・クリントンへとアメリカの政権が移り変わる時期を舞台にしています.そう,冷戦が終結して核戦争の恐怖から世界中が開放された代わりに,それまで押さえ込まれていた民族主義,部族対立が世界中で解き放たれた時期です.このときアメリカの外交・軍事戦略がいかに難しい局面に立たされたのかを,ベスト・アンド・ブライテストと全く同じ手法で,膨大な取材,政権内部のメンバーや対立する当事者双方のミクロな記述からえぐりだした傑作です.
私自身,バルカン半島で何が起きたのか,ボスニアでどういう悲劇が起き,コソボで何が行われたのか,いまだに正確には知りませんし理解もしていませんが,冷戦終結後の世界秩序がいまだに落ち着きを見せない今日,アメリカという超大国との付き合い方,世界中に多くの火種がくすぶる民族主義に対して,多くの示唆を与えてくれる羅針盤となる優れた著作です.
2001年9月11日の同時多発テロ以降,世界はますます混沌としてきました.根本的には世界中から貧困,差別,劣悪な統治を無くさなければならないことは周知の事実ですが,それを具体的にどのように進めていけばよいのか,誰も良い解答を持っていないところに悲劇があります.そして貧困と差別と劣悪な統治がテロリストを量産する悪循環に世界中が巻き込まれています.今日もエジプトの観光地での爆破テロのニュースが流れました.アメリカの圧倒的な力を "賢く" 使うにはどうすればよいのかがポイントですが,誰も良い解答を持たないのです.
それにしても,日本のジャーナリズムはいったいいつになったらこのレベルに達することが出来るのでしょうか?記者クラブのようなものがある限りそれは不可能なようにも思えます.立花隆さんが唯一の例外でしょうか.
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