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2005/08/07

低収益にあえぐ日本企業に期待される戦略論

戦略不全の論理―慢性的な低収益の病からどう抜け出すか 三品 和広 (著),価格: \2,730 (税込)

The_Logic_of_Strategy_Failure外国,特にヨーロッパに住んでみるとわかることですが,彼らは日本人ほどあくせく働きません.平日のアフターファイブや余暇の使い方などうらやましい限り.それなのに世界でもトップクラスの生活水準を維持していけます.これはなぜなのか?という疑問には,2004年10月にこのブログで紹介した本の冒頭に解答があります.簡単に言うと,日本企業はヨーロッパの企業に対して低い利益率しか上げられない,従ってより多くの割合の国民が働かなければならない,しかも長時間,という理屈です.なぜ低い利益率に甘んじているのかという問いには,上記の本は突き詰めると日本企業には戦略が無いからだ,という答えを用意しています.そんな馬鹿なと思うかもしれませんが,数字はそれを如実に物語っています.

そんなことは日本の企業人も先刻御承知なので,戦略論が広く読まれているのですが,もともと思考のフレームワークが異なるアメリカ流の戦略論(私はミンツバーグが好きですが)をいくら読んでも,どうも違和感ばかりが残るのではないでしょうか?そんな方にはこの本がお勧めです.

この本の良いところは,戦略の本質を演繹的,帰納的に明らかにした上で,戦略を司る経営と業務を司る管理を峻別して説明し,その能力を混同するところから戦略不全が生じると明快に断定しているところでしょう.これは経営人材を育成する最終章で特に明確に主張されていますが,優秀な業績を上げた管理職を経営者にしてはならないという主張は,そうやって出世してきた現在の経営層にとっては耳が痛いことでしょう.このあたりはさすが日本人の著者ならではで,日本人の思考パターンで抜けが生じやすいところを丁寧に補ってあります.また企業業績や経営者に関する多くの実例が示され,さながらビジネススクールのケーススタディを読んでいるかのように読み進めることができます.戦略論の常として個々の具体的な処方箋が示されるわけではありませんが,戦略と管理を区別しろという主張は,大きな方向性を示してはくれるので,現実問題で選択を迫られたときには大いに参考になるはずです.

しかし一方,戦争の世界で言われていることに,日本軍は現場の兵隊は恐ろしく有能だが指揮官は救い難いほどに無能だ,というものがあります.これはすでに日露戦争の頃には言われていたようで,その後のノモンハンや太平洋戦線などでは決定的な差になり,日本の敗北を決定付けた能力の格差です.戦後の企業社会でも強い工場,弱い本社などと言われて,モノづくりの現場の能力と戦略立案の本社機能がちぐはぐとも言われ続けています.どうも日本人は戦略に弱い,あるいは戦略に強い人間を育てることが下手なようです.

これはおそらく日本の文化的伝統と深く関わっているのでしょうが,このあたりは2004年10月にこのブログで紹介した本である程度解きほぐされています.しかし,これを変えていくのはこの国の文化基盤を変えることでもあるので,そう簡単ではありません.

かく言う私は,某大学で学生を前にして戦略論のさわりを講義したことがありますが,学生たちは大変熱心に聴講してくれ,戦略不全の弊害に驚き,戦略に興味を持ってくれたようです.若い人たちが日本の伝統的戦略不全を打ち破ってくれることを期待しています.

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