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2005/10/09

まさに,ローマは一日にして成らず

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) 新潮文庫 塩野 七生,価格: \420 (税込)

ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下) 新潮文庫 塩野 七生,価格: \460 (税込)

Nanami-Shiono-Roma_Non_Uno_Die_Aedificata_Est塩野七生さんの有名なシリーズの文庫版です.これはその第一巻と第二巻.ローマの建国期を扱っています.塩野さんの著作を読むのは全く初めてだったので,世評の高さに期待をもって読み始めたのですが,大変読みやすい日本語と,知的で抑制された筆致が素晴らしく,買って良かったと思わずにはいられないシリーズです.

歴史モノは,しばしば特定の人物や体制への思い入れが強いあまり,それを素直には受け入れられない読者にはついて行けない代物に仕上がってしまうことが多いのですが,この著者はローマへの極めて強い思い入れを持ちながらも,冷静で公平な歴史家の目で,あたかも経営学の教科書を書くように淡々と書き綴ります.しかも後代を生きる者の特権を振りかざして,あと出しジャンケンのように"歴史の総括"を行ったりはせず,あくまでローマの同時代人の視点を大切にしているところが実に素晴らしいところです.

伝説のローマ建国が紀元前753年で,それからローマ半島を統一するまでに実に500年もかかっているのですね!まさにローマは一日にして成らずということでしょう.イタリア半島中部の遊牧民が若きリーダーに率いられて定住生活を始め,周辺勢力と数限りない戦争を繰り返しながらも少しずつ領土を拡大していきます.すでにその頃から,被征服民にもローマ市民と同様の権利と義務を与えてローマ同盟に同化させていくやり方を取っていたとはちょっとした驚き!

長期的な戦略に裏付けられてそのような政策を採ったわけではなく,当時の弱小勢力としては少しでも自分の身内を増やし,直接税の賦役として戦ってくれる兵士の数を増やしたかったというやむをえない事情があったのでしょう.しかし,このポリシーが地中海全域を支配するに至ったローマの,最も強力でローマ的な特徴であることは古来から繰り返し主張されているので,おそらくそれはその通りなのでしょうが・・・もうすこしガバナンスの問題として自分なりに考えてみたいと思っています.

また貴族対平民の権力闘争も大変興味深いです.帝政を否定し,かといってギリシャ都市国家のような直接民主制を取り入れることもせず共和制を敷くのですが,そこには元老院という寡頭制の仕組みが取り入れられて,民意の吸い上げと,少数だが複数の権力者による統治の安定の間の危ういバランスを取ることにどうにか成功していきます.

上巻でのローマはまだまだ小国,滅亡していないのは単に運が良かったからとも言えそうな程度なのですが,下巻でイタリア半島統一を成し遂げるまでの長い道のりは,地中海世界の多様性を改めて教えてくれる素晴らしい教材です.それにしてもガリア人はこのころからローマを悩まし続けていたのですね.

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