居住者の視点で見たパリの変なモノたち
路上観察で歩くパリ 角川oneテーマ21 (C-101) 稲葉 宏爾 (著),価格: \930 (税込)
1987年からパリ郊外に在住の日本人グラフィックデザイナーによる軽妙で楽しい路上観察記です.私もほぼ同時期にパリ市内に在住していたため,大変懐かしくまた興味深く読むことが出来ました.
パリは東京に比べるとかなり小さな都市ですが,魅力にあふれる大人の街です.その魅力は,短期の旅行だけでもわかるものと,住んでみないとわからないものに大別されますが,本書に書かれているものは大部分が後者に属するものです.なぜならば,居住してはじめて目が届くものの中に外国人にとっては奇異に感じるものが多いからです.本書に出てくる「雑巾堤防」はその最も典型的なものでしょう.観光客はこういうものに気が付く余裕がないと思いますが,しばらく住んでみると「これは何だろう?」とか「へぇー,こういう風になっているのか」と気づくようになってくるものです.この雑巾堤防は街の中いたるところ,私が住んでいたアパルトマンの前の路上にも確かにありました.
本書に書かれているのはほとんどが「モノ」に関することです.しかし外国人が奇異に感じることはモノだけではありません.人々の振る舞いや態度,そして考え方こそ最も奇異に感じ,時として猛烈なストレスの原因になるものです.私が苦労して書いて持って行った自動車保険の契約申込書を,代理店の窓口嬢が目の前でビリビリと引き裂いた光景は,いまだに忘れることができません.こういうエピソードの二つや三つは居住者であれば誰でも経験することですが,そういうことを書いてみたい気もします.ただし本書のように写真中心の軽いコラムという具合にはいかないでしょうね.エトランジェの悲哀がにじんできて暗くなるかも.
本書はパリに住む日本人であれば誰でも知っている日本語の無料新聞 "OVNI (フランス語でUFOの意味)" に連載されたコラムをまとめたものだそうです.OVNI がいまだに発行されているのを知っただけでも感激.ただし,本文で参照している写真が次ページをめくらないと見られないのはまずい編集でしょう.とても読みにくくなっています.
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