北方領土は自然保護区に
北方領土問題―4でも0でも、2でもなく 中公新書 岩下 明裕 (著),価格: \882 (税込)
かつて国境線紛争で小競り合いを続け,一触即発の危機にまで行ったことがある中国とロシアが,長年の係争に終止符を打ち,国境線の画定に最終合意しました.そこに至るまでの長い交渉の経過を著者はまず説明します.すぐに合意できる部分はどんどん合意していったこと,国際法や過去の条約だけでは解決が困難な部分に対しては大胆な政治的妥協を厭わずそれをWin-Winの関係と位置づけたこと,世論のナショナリズムに火をつけないよう交渉過程を漏らさないよう努力したことなどが成功の鍵だったそうです.
著者はこれを北方領土にも応用できないかと論を進めます.私は北方領土についてはあまり知識もありませんしさほどの問題意識も無いのですが,仮に著者が言うように歯舞,色丹だけではなくそれに加えて何らかの追加(国後島のことを強く示唆していますが)が得られたとして,それをこれからの日本の経営にどのように生かしていくのかに私は興味があります.
結論から言うと,旧島民の帰島は最小限に制限し,できる限り全島を自然保護区として開発を抑制し,ガラパゴス島のようなエコツーリズムにより自然保護と経済活動を何とか両立させる政策を取るべきと考えています.理由はいろいろあるのですが,北海道からカムチャツカとサハリンへ至る極東冷温帯の自然は急速に破壊が進んでおり,そこにはかけがえがなく目立たないけれども極めて豊かな生態系がひっそりと生きながらえているからです.
これとロシアと中国のアムール川沿いの天然林の保護をセットにして外交的なイニシアチブを日本が取りながらロシア,中国と協力関係を結ぶという図式が私が思い描く極東北部の大域政策です.このような政策の構想と細部の立案ができる官僚は日本にはいないのでしょうね.昔,冬の知床から国後島を眺めながら同様のことを考えていたことを,この本を読んで思い出しました.
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コメント
俊さん、こんにちは。
中ソ→中露国境係争と北方領土の問題と同様に論じることは、それ自体が無理かと思います。
中露間の係争の場合は、両国が国を接することになって、どこに国境線を引くかという問題で、そこに国境線が必要だということはそれぞれが了解していることがらでした。
ところが北方領土は、本来日本の領土だった場所が奪われたものですから、先ず変換という日本の立場は変えられないと思います。
敢えて日本に関わりがあるもんだいで、中露国境係争に近いものをあげれば、竹島/独島問題ではないでしょうか。こちらで、中露間で生かされた知恵を活用することは考えられていいでしょうが、北方領土については元々国境の係争がなかった地域ですから、粘り強く交渉を続けることが肝要だろうと考えます。
投稿: 伊 謄 | 2006/04/17 01:36
伊さん,コメントありがとうございます.御指摘のように中国とロシアの国境線係争とは必ずしも同列には論じられない問題ですし,著者もそのことは断っていますが,国境係争が解決できない問題ではなく,双方の意思によるところが大きいという点は学ぶことができると思います.
今問題になっている日中中間線付近の海底油田問題の解決にはまだまだ時間がかかりそうですが.
投稿: 俊(とし) | 2006/04/17 21:36