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2006/05/06

中国外交政策の内側を解明

中国が「反日」を捨てる日 講談社プラスアルファ新書 清水 美和 (著),価格: \920 (税込)

Shimizu_yoshikazuchugoku_ga_hannichi_wo_外から見ていて大変わかりにくい中国の政策決定過程,特に対外的な政策決定過程をある程度明らかにしている点が本書の最大の功績だと思います.中国共産党の内部は一枚岩ではなく,様々な考え方に基づく政策論争が行われているという,ごく当たり前の現実を前提に,それぞれのプレイヤーの実名とその役割を明らかにしていきます.

前国家主席の江沢民と日本の小泉首相との靖国をめぐる確執はすでに有名な話ですが,江沢民が隠然とした影響力を持つ上海の対日強硬派と,現国家主席である胡錦濤が当初目指した対日関係改善政策の駆け引き.それが日本の中枢でよく理解されないまま,中国内での日本に対する大衆抗議行動はエスカレートし・・・という解説は当を得ているように思えます.胡錦濤も中国内の強硬派,特に軍の意向を受け入れざるを得なかったという事態は,日本にとって心胆を寒からしめる出来事です.

それにしても,中国のメディアを巡る状況にはいやーな感じがします.中国では新聞報道はおろかインターネットすらも国家によって監視・統制されています.オーウェルの1984年そのままの世界.その意味で中国のインターネットは,開かれ,自由で,その副作用として統制が取れないという,インターネットの最も本質的な特徴を削ぎ落とされてしまった一つの巨大なイントラネットに過ぎません.その外界から閉ざされた中で,大衆民族主義が自己触媒反応のように増大している現状は大変恐ろしいものがあります.ちょうど戦前期,日本の無知蒙昧な大衆世論が新聞によって好戦的な気分を煽られ,中国を蔑視し,鬼畜英米何するものぞと気勢を上げていた状況に重なります.

特に,中国内の理性的・現実的なリアリストたちの意見が,大衆民族主義の暴力によって圧殺され,物が言えなくなってきているという著者の指摘こそ,戦前の日本が大きく道を誤った過程とそっくり重なります.この過程は半藤一利さんの "昭和史" で詳しく紹介されていますので,ぜひ御一読ください.日本のリアリストたちは,日本国内の民族主義たちと戦わなければならないと同時に,中国内のリアリストたちを支援する行動もとらなければならないのですが,経済界は完全に腰が引けており,米国のようにグローバル・ビジネス・リアリストたちが政策立案に影響力を与えるまでにはなっていません.

厄介な隣人,中国.しかしそもそも外交とは,隣国と仲良くなることでも,隣国を好きになることでもありません.必ずしもその必要はないのです.嫌な相手,できれば付き合いたくない相手とも,どうにかこうにか破綻せずに付き合っていくこと,これが外交の基本でしょう.その意味で,中国や韓国との外交は,日本の外交力の良い試金石になるはずです.それが自民党の次期総裁の政策に大きくかかっているかに言われていますが,もっともっと複線的,多元的な外交を進めていくべきでしょう.

題名が完全にミスリーディングなのが玉にキズ.またこの価格で紙質はもう少し良いものにできなかったのでしょうか?軽いのはいいのですが保存は効かないのではないかと思います.

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