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2006/07/05

ラウンドアップ

Ca250174m右の写真は自宅の近所の田んぼのあぜを撮ったものです.おそらくラウンドアップ系の除草剤を撒いて雑草を枯らした後です.ラウンドアップについては上のリンクで Wikipedia を参照していただきたいのですが,米国 Monsanto 社が1970年に開発した除草剤で,日本では日産化学が商権を持っていますが,すでに特許の保護期間が切れているため,主成分を含む安価なジェネリック品が各社から発売されています.

ラウンドアップはほぼ全ての植物に対して効力があり,植物の体全体を枯らす力があります.右の写真でも,除草剤を撒いた範囲の全ての植物が茶色く枯れているのがわかります.農家にとっては除草の労力を省けるために,田んぼのあぜに対してもラウンドアップを使う場合があります.しかし田んぼの中には撒けません.稲自体が枯れてしまうからです.

ところが Monsanto 社は,このラウンドアップに耐性を持つ遺伝子組み換え作物を作り,その種子をラウンドアップとセットで販売しています.今のところ水稲の Roundup Ready 種子については聞いたことがありません.ニーズが少ないと判断したからでしょうか?一方,小麦の Roundup Ready 種子はすでに世界中で栽培されています.広大な小麦畑に飛行機からラウンドアップを撒くと,小麦だけは青々と茂り,その他の雑草は茶色く立ち枯れるという光景が目に浮かびます.

遺伝子組み換え作物には,食品としての安全性の問題と,環境に与える影響の二つの問題点がありますが,このポストでは後者のみを扱うことにします.

ラウンドアップで雑草を全て枯らしてしまうと,生態系に対する影響は絶大です.それぞれの雑草に依存する昆虫は死滅し,その昆虫に依存している昆虫や鳥類,両生類なども生きていけなくなります.ラウンドアップを撒くとほとんどの生物種を消してしまうことになり,ある種の砂漠化をもたらします.確かに上の写真を見ていても感覚的に気持ちよくはありません.いやな感じです.まるで "沈黙の春" のミニチュア版です.

地球生態系が小麦畑だけで成り立っていれば,影響はそこまでなのでまだわかりやすいのですが,生態系の網の目 (WEB) は,想像を絶する広がりと多様性を持ち,複雑な相互作用によって動的な安定性を保っていると考えられています.その一部が大規模に破壊された場合,残りの生態系に及ぼす影響を予測するのはほとんど不可能です.線形な系の常識は通用せず,非線形で非平衡な開放系の力学を予測するには,現在の人類の知恵は十分ではありません.

われわれの能力不足を前提にすると,保守的ですが合理的な一つの行動基準として,影響を予測できない撹乱はできる限り与えない,というものが考えられます.それよりも冒険的な行動基準として,危険な兆候が現れるまでは撹乱による効用を優先させる,というものもあり得ます.しかし非線形な系では,兆候が現れてからではどんな手を打っても手遅れ,というリスクが付きまとうので,私はより保守的な基準を選ぶべきだと考えています.

伝統的な有機農法と,農薬プラス遺伝子組み換え技術とは,一概にどちらが優れているとは言えません.それぞれに利点とリスクがあります.前者の利点は,食品衛生や環境に対する重大な悪影響が無いということであり,リスクは,世界の増大する人口を養うには効率が悪いということでしょう.後者は農業の効率に絶大な恩恵をもたらしますが,生態系に対する悪影響は相当程度残ります.世界中が有機農法に限った農業を行えば,生物多様性や環境の質は良く保たれますが,農産物は高価になり,貧しい地域では飢餓が起き,その結果,世界の人口は今より少ないレベルで均衡するでしょう.これを望む人たちは確かに少なくありません.一方,バイオテクノロジーを農業に取り入れると,世界の人口,特に発展途上国の人口はまだまだ増大して経済活動はますます盛んになりますが,種の多様性は損なわれ,生態系は貧弱になり,世界の風景はより殺伐としたものになることでしょう.しかしこの方向が良いと感じる人たちもまた多いのです.

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自然」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。

ラウンドアップの効果は絶大と聞きますが、これはとてもとてもわかりやすい写真ですね(^^;)

「残りの生態系に及ぼす影響を予測するのはほとんど不可能」であると同時に、残りの生態系に影響を及ぼさずに、狙った効果だけを期待することがそもそも不可能ですよね。人類に手によるあらゆる「画期的発明」が、その後、想像だにしなかった副作用に苦しめられることになったという歴史にこそ、学ぶべき点は多いように思います。

もっとも農薬会社にとっては、生態系への影響などしったことはなく、どれだけ市場を占有できるか、それによって利益を上げることができるかだけが関心事なのでしょうが...

今生きている人を見殺しにすることはできませんが、地球という限られた場所の収容力を素直に認めるべき時が来ているように思います。

投稿: あだなお。 | 2006/07/06 22:33

あだなおさん,コメントありがとうございます.

自宅の窓から見えるところに,ラウンドアップで茶色く枯らされたあぜがあるのは,気持ちの良いものではありません.ラウンドアップの残留毒性はどんなものなんでしょうね?

ラウンドアップ耐性のある米の開発は進んでいると容易に想像できます.ただし,まずは東南アジアなどの長粒種から始まるのではないでしょうか?日本はGMOに対する抵抗が相当強いでしょうから,きっと後回しにされるはずです.そしてそれを劣悪な統治が行われている国から使い始める,という戦略でしょう.いくつかの国名が容易に想像できます.

投稿: 俊(とし) | 2006/07/07 21:10

残留毒性はどうなんでしょう?

ちょっとググッて見ました。もともと残留毒性は低いと言われて(宣伝されて)いたようですが、最近では発ガン性が見つかったという研究例もあるようですね。
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/gmo/news/05031502.htm

たとえ残留毒性がなかったにしても、生態系のバランスが大きく崩れることは間違いないでしょう。そこにさらにGMOを投入とかなると、もはや何が起きるかまったく想像できませんね。

そもそもGMOごときで、本当に生産性が上がるのか? 直感的にですが、僕は非常に疑問に感じています。自然界の「あそび(のりしろ)」には、それなりの意味があることが多いからです。それをムダだと切り捨てると、きっとどこか別のところがうまくいかなくなるでしょうね。

投稿: あだなお。 | 2006/07/16 17:01

コメントの最後の部分は全く同感です.ラウンドアップ耐性という強みを獲得した遺伝子は,同時に何かを失うはず,すなわち,何らかの弱みを背負うはずです.これは自然の掟とも言うべきものでしょう.それは何らかのウィルスや病原菌に対する感受性かもしれませんし,環境変化に対する脆弱性かもしれません.

鎌状赤血球遺伝子が悪性の貧血を引き起こすにもかかわらずアフリカの一部で残っているのは,マラリアに対する耐性を持っているからです.何かを得れば何かを失う,何かを失っても何かを得る,これが生態系の多様性から来る自然の妙ですね.

投稿: 俊(とし) | 2006/07/16 19:31

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