こちら側からあちら側へのパワーシフト
ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる ちくま新書 - 梅田 望夫 (著)
ベストセラーだと聞いていながらなかなか手を出せずにいたのですが,駅でちょっとした時間待ちをする間に書店に寄って買ってきました.読み始めてみると一気に読み進むことができて,あっという間に読了しました.この本に書いてあることは,ほとんどが既に知っていることでしたし,個々の項目が意味するところもわかっていたつもりではあったのですが,改めて体系的に説明されると全体像がよく見えてきて,Web 2.0 のすさまじさが感覚的につかめるようになります.そういう意味でこの著者は文章力がありますね.結構複雑な概念を短いキーワードで縮約し,滑らかな日本語で語ってくれます.この語り口の上手さがベストセラーになった一つの要因ではないでしょうか?
私は著者より一世代年上で,学生時代にマイクロ・プロセッサに慣れ親しみ,大学院を卒業する頃からようやく出回りだしたパソコンを触り始めた記憶があるのですが,その当時から一貫して感じ,論理的にもそうだと思うのは,パソコンやインターネットの中心思想は,60年代に生まれたアメリカン・カウンター・カルチャーにあるという点です.インターネットやオープン・ソースの根底に流れるのがこの思想であることは間違いありません.60年代に世界を覆いつくした思想革命は,その後も力強い命脈を保ち,時代の節目節目に顕在化してきました.それが非常に強い力を持つようになったのは著者が言うとおりここ10年のことです.チープ革命とインターネットのお陰以外の何ものでもありません.私が10年前の1996年の年賀状に書いた文章を以下に抜粋してみましょう.
私にとって INTERNET のキーワードはアナキズムそのものであり,60年代から脈々と伝えられ受け継がれていったアメリカン・カウンターカルチャーの最新の贈り物であります.大体,パソコンというもの自体がカウンターカルチャーの象徴的存在です.日本の政治家や官僚や企業経営者でこの意味が判っている人がどの程度いるのでしょうかね?商売ネタだと思っていると,実は永年の宿敵だった,と気付くことが出来るのかな?
Web 2.0 を象徴する企業として Google が詳しく紹介されていますが,著者は更なる破壊者の出現を予言しています.Google はエリート技術者の独善的集団であると看破し,より大多数の知的大衆の知恵と善意を集積してその中から玉を選び出すことが更なる破壊につながる,と著者は言います.それを次世代の若者に託している辺りは,既に老境に達しているかのような感じさえ受けますが,私たちとは "住む世界が異なる" 若者たちに託さざるを得ないことも真実なのでしょうね.でもそのときに知的大衆の一人ではありたい,と思います.
私が特に共感できたのは,終章近くで,日本のエスタブリッシュメント層は自分が属する組織を一度も辞めたことが無い人たちから成っているという指摘です.これは私が転職するたびに強く感じ,日本社会に違和感を感じる最大の原因だったので,胸がスーッとしました.さらに付け加えると,日本の社会制度は個人が組織への帰属の仕方を一生変えないという前提に基づいて設計されており,人の生き方の多様性に対する配慮がほとんど見られないことが最大の欠点です.まるでメニューが一品しかない定食屋のようなものです.それも毎日が焼き魚定食ばかり・・・みたいな.サラダバーで好きなだけ野菜やパスタを取った後で,焼き方を指定したステーキを食べ,好みのデザートで締めくくって,エスプレッソで余韻を楽しむ,という選択の余地がまるでありません.江戸時代のほうがはるかに選択の余地があったように思いますが,日本はなぜ近代になってから画一的なモノカルチャーに堕してしまったのでしょう?歴史の発展の向きが逆だよねぇ?
で,Google の次なる会社を起こすか,加わりたいと思い始めたのですが,こちら側に住む50代では無理なんでしょうね?
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コメント
俊さん、こんにちは。
昨日書き込んだものがうまくいかなかったようなので、再コメントします(ココログはなかなか調子がよくなりませんね)
この本、気になっていたのですが、俊さんの紹介を読んで、ますます読みたくなりました。技術的な流れやその意味するところもともかく、思わずビンッと響いたが最後の「終章近くで...」の下りです。
僕もまったく同感です。世界が多様性を失いつつある時代の名かで、Web2.0の世界はそこにさまざまなクサビを打ち込み抵抗しようとしているかのように思えます。しかし、日本のエスタブリッシュメント層は、ユニラテラルな価値観に対する多様性の猛烈な巻き返しという流れそのものを感じることが出来ていないように思えます。というか、そもそも多様性の意味をまったく理解していないのではないでしょうか。
多様性の力を理解し、それを生かせる企業を応援しようと思って、自分の会社を作る準備中です。もちろん俊さんだって、まだまだ間にあうと思いますよ。それに内部からクサビを打ち込むのは、かなり威力があるはずです(笑)
投稿: あだなお。 | 2006/07/17 09:05
会社設立,がんばってください.私はしばらくは今のままでもがいてみるつもりです.
投稿: 俊(とし) | 2006/07/17 09:19