中国人リアリストによる日中比較論
「権力社会」中国と「文化社会」日本 (新書) - 王 雲海
書店に立ち寄った際にほんの軽い気持ちで買ってみたのですが,なかなか面白かったというのが素直な感想です.著者は80年代に中国本土から日本に留学し,現在は日本の大学で教授を務める中国人.法学が専門との事で,なるほどその主張の背骨には法学がしっかりと通っていることが後になってわかります.
著者は,中国は権力者が広大な国を治める必然として政治的「権力」に基礎を置いた社会が構成され,それに対して日本は,大衆の「文化的な暗黙知による共同体意識」に基礎をいた社会が構成されたと論じます.これら二つの社会の差異は意外にに大きく,その違いをお互いによく認識しなければ,様々な誤解やすれ違いが生じて緊張が高まると言います.特に,日本と中国のいずれかが圧倒的に他よりも優位に立つ場合には緊張は生まれないが,現代はどちらも対等な程度の優位さを持つようになり,それでかえって緊張が生まれてくるのだと述べます.特に,日中友好の歴史的変遷を上記の理論で構造化して見せるくだりは,著者自身の体験と重なって大変わかりやすい解説となっています.
面白かったのは,日本と中国に対比させてアメリカのことを「法律社会」と看破しているくだりです.これは昔から幾度となく言われてきたことですが,「権力社会」「文化社会」と対比させてこそ,その意味が良くわかります.しかしアメリカは既得権や安全保障に対しては極めて貪欲で,超法規的なことを平気でやってのける暴力的な社会でもあることも肝に銘じておくべきでしょう.
著者は非常に良心的なリアリストだと思います.昨今の緊張する日中関係に心を痛め,それを何とか改善しようと考えています.それにはまず違いを認め,それを良く理解することから始めようと言っているように聞こえます.遠回りのように聞こえますが,それが異文化と付き合うときの基礎であることは間違いありません.全体にやや饒舌でしつこいと感じられる面もありますが,同一の本質を様々な角度から切り取って見せてくれる手法は功を奏していると思います.このブログで2年ほど前に紹介した中山治さんの「戦略思考ができない日本人」とあわせて読むと,さらに理解が深まると思います.
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