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2006/08/10

劇薬の楽な飲み方も教えてほしい

日本の電機産業再編へのシナリオ―グローバル・トップワンへの道 (単行本) - 佐藤 文昭

著者は業界では有名な証券アナリスト.その人が,長年の業界ウォッチングから提言した日本の電機産業再編のシナリオがこの本です.シナリオの内容は,従来から業界内では現れては消えをくりかえして来た「構想」を体系化し,段階を経た再編となるようにステージを調整したものです.従ってそれほどの目新しさはありませんが,もしもこれがそのまま実現すれば,確かに著者が言うように日本の電機業界の復活も真実味を帯びてきます.

しかしその構想を実現するには,このシナリオの提示だけでは到底不十分で,シナリオを実行するための実に様々なプロセスの詳細設計が必要になります.企業間同士の話し合いで決められるものだけではありません.法改正が必要になったり,社会保険庁の改革をセットにしなければならなかったり,あるいは地方自治体の再建団体化を引き起こしたり,と社会的影響も極めて大きなものになるでしょう.日本全体を巻き込んだ改革ができるかどうか,そうです,日本社会全体の改革力が問われるものとなるでしょう.

著者の主張で光っているのは,現状を幕末の日本,薩摩と長州の対立になぞらえて改革を促している点です.薩長は結局は世界における日本の地位を認識し,国内での対立の不毛を悟って大改革に舵を切りました.それは薩長がより大きな危機感を共有できたからでしょう.日本の産業界も,競争相手は国内のライバル企業ではなく,台湾や韓国の企業だという認識と危機感を共有できれば,日本人はこの程度の再編をやり遂げる力は十分にある,と著者は主張します.

著者のシナリオは,Post Merger Integration への言及が不十分だったり,反対仮説を想定した論理展開がなされていなかったり,同じ話の繰り返しが多かったりと,手ごたえが不十分な面もありますが,日本の電機業界の長年の悩みをすっきりと語ってくれるので,経営戦略系でうっぷんのたまっている向きには,夏の夜の憂さ晴らしになること請け合いです.

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