方向感が定まらないマンドリンの天才
How to Grow a Woman from the Ground [from US] [Import] - Chirs Thile
このブログではこれまでにも Chris Thile や彼がメンバーになっている Nickel Creek を何回か取り上げてきました (*1 *2 *3 *4) が,最近はどうも伸び悩んでいる様子で,それが最近のアルバムにも現れていると感じ,大変気をもんでいました.今回のアルバムはどうでしょう?アルバムのジャケット見開きというのでしょうか,ディスクをはめ込む面に,アルバムの録音に使われた2本の Telefunken ELA M 251E というビンテージ物のマイクロフォン(左のリンクのサイトでは1本 US$7,995 だそうです)の写真が掲載されています.この2本のマイクロフォンを無指向性となるよう配置して録音したとのこと.どうやらこのアルバムは,この2本のマイクだけを使ってセッション全体を一度に録音したもののようです.これはアーティストにとっては大変な緊張を強いる仕事でしょう.パートごとのテイクは許されず,録りなおしも効かない,大変厳しいものです.それをやろうと決めた当の Chris Thile をはじめとするアーティスト達の心意気には拍手を送りたいと思います.マスタリングはかの Gary Paczosa が務めています.これはほとんどお約束のようですね.
その結果は・・・個々の演奏は素晴らしく,特に Chris Thile のマンドリンは相変わらずの冴えを見せていますが,全体としての音楽的統一感には乏しく,せっかくのきらめく才能を,一つの物語を持って語らせるプロデュースは出来なかったものかと,大変残念に思います.第1曲目の "Watch 'At Breakdown" と最終第14曲目の "The Eleventh Reel" は Chris Thile らしい素晴らしい名曲.ところがアルバムタイトルの第7曲目 "How to Grow a Woman from the Ground" は何度聴いてもぱっとしません.ヴォーカルが悪いのかなぁ?その次第8曲目の "The Beekeeper" は一発テイクの緊張感が漂う素晴らしいセッションです.
集ったアーティストたちの演奏もヴォーカルも水準以上であるのは間違いないのですが,宝石の原石や金細工のカタログを目の前に開かれているようで,これらのパーツを用いてどのような工芸品を作りたいのか,それは剣の鞘なのか,小箱なのか,王冠なのか,判然としません.別の言葉で言うと,有り余る才能をもてあまし,どう使っていいのかわからず悩んでいるという状況です.この悩みの状況はいつ解消されるのか,彼自身もっと人生の中で悩み苦しむことを積み重ねていってはじめて新しい境地が開けてくるのかもしれません.気長に見守り続けたいと思います.
| 固定リンク | 0
「音楽」カテゴリの記事
- 40 年前に起きた奇跡(2024.10.06)
- 小坂明子の「あなた」(2024.10.04)
- パリ・オリンピック開会式に寄せて(2024.08.31)
- 音楽ライブラリを再構築(2023.04.28)
- Willie Nelson 珠玉のデュエット集(2022.09.08)
コメント