« 伸びやかなTrad Bluegrass | トップページ | 方向感が定まらないマンドリンの天才 »

2007/02/03

納豆がだめなら血液型はどうだ?

健康・ダイエット情報を売り物にしてきた人気番組で納豆のダイエット効果を取り上げたら,翌日から納豆が売切れるなどの社会現象が起きましたが,その直後の週刊誌の疑惑追及にあっさり降参.取材内容に捏造があったとして番組は打ち切り,社長は謝罪,番組スポンサーは降板などの一連の騒ぎが起きました.

いくつか思うところがありますので書いてみたいと思います.まずは視聴者としてのリテラシー.こんなもの信じるなよ!と言いたくなるほどの非科学的な検証にやすやすとだまされてしまう,あるいは喜んでだまされたがる,私たち視聴者自身の問題を見過ごすわけにはいきません.

科学というものは対象分野の種類ではなくて思考の手法やプロセスのことです.従って,数学や物理ばかりが科学ではありません.歴史学や考古学も科学になり得ます."なり得る" とわざわざ書いたのは,科学ではない場合も多いからです.日本では,学校教育のレベルから歴史や考古学は "一種の文学" として扱われています.そう,"歴史のロマン" なんですねぇ!科学と文学のどちらが上位でどちらが下位ということを言いたいわけではありません.使い分けが出来ていないのです.考古学の何々論争というものを聞いていると,まるで文学論争."そんなもん,放射性炭素でさっさと決着つけろ!" と言いたくなるのは私だけではないでしょう.そんな単純に決着が付く論争ばかりでないのはわかっていますが,それにしても,事実(証拠)に基づいて論理的に推論する,という科学の基本が軽視されているように感じます.学校教育でも,科学は知識を教える場ではなく,プロセスを身に付ける場になってほしいものです.

次にマスコミへの擬似科学の浸透度合いを考えてみましょう.このブログでも以前,血液型性格判断を取り上げたことがありますが,これは現在でも日本では最強の擬似科学でしょう.いまだに生き残っている健康食品系の擬似科学に "酸性食品,アルカリ性食品" があります.私自身,子供の頃,母親から酸性食品,アルカリ性食品についてとくと聞かされたくちなので,こんなものにだまされてきたのかと内心穏やかではありません.しかしテレビのバラエティ番組を見てください.この手の擬似科学が何と蔓延していることか!ここ10年ほどで特に増えたと感じるものに水や空気に関する擬似科学があります.曰く "アルカリイオン水",曰く "マイナスイオン効果" などなど.こんなものを真面目に信じ,多くの製品が売られているのは日本くらいのものですが,これにも "発掘!あるある大事典" をはじめとする健康バラエティ番組は深く加担しています.

今回,納豆のダイエット効果がこれほど問題にされるのであれば,血液型性格判断や,アルカリイオン水や,マイナスイオン効果などもことごとく糾弾されて良さそうなものですが,はてさてその気配はありませんね.マスコミもそこまで踏み込む自信はないのか,そもそも擬似科学がどういうものかわかっていないのか.日本のマスコミの科学リテラシーは高いとは言えませんからねぇ・・・もっとがんばってほしいのですが.

先ほど科学の基本は,証拠に基づいて論理的に推論することだと書きましたが,新薬の承認プロセスはまさにこれです.最近では治療の分野でも Evidence-based medicine ということがうるさく言われるようになってきました.これは実はなかなか大変なことで,多数の被験者に対して実験を行い,薬や治療法の効果がある誤差以内で統計的に有意であることを証明しなければなりません.これまで長く習慣として行われてきた治療法が,EBM の観点から否定され,新たな治療法に取って代わることも起きてくるはずです.ちなみに EBM の直接の結果ではないと思いますが,日本の外傷の治療法は最近ずいぶん変わりました.ご存知でしたか?

さて,EBM 自身は結構なことなのですが,最後にちょっと別の方向からの味付けをしましょう.アフリカでは病気の治療は長らく呪術師の仕事だったそうです.それは,高級な言い方をすると,病気を個々の臓器の不調と捉えるのではなく,精神面を含めた全身のバランスが崩れた状態と捕らえたからです.薬草などの生化学的療法と合わせて,精神面からも治療を施すことで全身体的なバランスを回復させたのだと考えられます.アフリカでは現代でも西洋医学の医者と呪術師が協力して患者を治療することがあるのだそうです.これは最初に長いヒアリングとカウンセリングを行うインドの伝統的治療法と良く似ていますし,漢方の考え方とも通じるものがあります.

だいぶ長い前置きをしてしまいましたが,EBM が大事とはいっても,人間の健康を司る要素が全てわかっているわけではありませんし,EBM による検証には長い長い時間がかかりますので,EBM が万能というわけにはいきません.そのとき,数千年の経験から生まれた伝統療法の中にも何がしかの真実と効用があるのではないかと思うのです.人間の身体と脳との関わりはまだまだわからないことだらけですし,伝統療法にはなかなか魅惑的なものもあるようですから,可能性を全て否定するのは早計だと思うわけです.ちょっと腰砕けでしたね.

| |

« 伸びやかなTrad Bluegrass | トップページ | 方向感が定まらないマンドリンの天才 »

オピニオン」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 納豆がだめなら血液型はどうだ?:

« 伸びやかなTrad Bluegrass | トップページ | 方向感が定まらないマンドリンの天才 »