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2007/03/03

ゼロ成長社会設計序論

持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想 (新書) - 広井 良典 (著)

大変刺激的なタイトルの本なので,書店でも手にとって見た人は多いのではないでしょうか?経済成長はいずれ鈍化し,どこかでゼロ成長になるのは自明の理ですが,そのような社会を地球環境の制約の範囲内で長期間持続させ,しかも個人の生活の保障や富の分配の公正さを保つにはどのような社会制度を作り上げればよいのでしょうか?21世紀の私たちに突きつけられた最も基本的な命題.これに対する有効な回答を今世紀中に得ない限り,人類が22世紀を迎えることはありません.

著者は元厚生官僚で現在は大学教授.そのキャリアに基づく長年の思索が詰まった本です.まず前半で,著者は富の再分配の問題を取り上げます.そして "人生前半の社会保障" というユニークな概念を提案します.これは欧米各国ではある程度制度化され,慣習として許容されている仕組みですが,これを日本にも取り入れようという構想です.私は基本的には賛成ですが,この仕組みを取り入れただけでは,若者の失業率を下げたり,世代間でのワーク・ライフ・バランスが自動的に均衡されるわけでもないので,追加の施策がいくつか必要になるだろうと想像しています.

後半は,政治哲学と社会経済政策とを対応させ,社会が持続可能であること,すなわち経済活動が地球環境の制約の範囲内であることと,そのような中で,個人が健康で文化的な生活を保障され,しかも富の再分配の公正さが保たれるにはどうすればよいのか,という本質的な課題を論じます.著者の提案は,ヨーロッパの社会民主主義的な政治哲学に基づきながらも,生態系との調和という本来の保守主義の要素も取り入れた,いわば折衷的なものですが,このあたりはもっと議論が行われてよいでしょう.著者も本書は序論に過ぎないと考えているようなので,続編が期待できます.また,以前にこのブログで紹介した "人口減少社会の設計" と合わせて読むとさらに理解が深まると思います.

このような社会に関する本質的な議論を行わずして,個々の政策を立案することは出来ないはずなのですが,現在の日本で行われているのは,"美しい国" という極めて情緒的で非論理的な言葉遊びに基づく,既得権保護の政策補強でしかありません.グローバル・ビジネス・リアリストの意見すら十分には入っておらず,ましてや本書のような骨太の社会制度設計の思想など欠片すらもありません.しかも,そのような為政者に迎合してしまう情緒的な有権者が多数派であるという点も悲劇的です.それを打ち破れるかもしれない著者らに声援を送りたいと思います.

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