美徳あふれる?ブルーグラス
The Art of Virtue [Enhanced] [from US] [Import] - Adrienne Young & Little Sadie
Adrienne Young はすでに Wikipedia に詳しいエントリーがあるほど評価が高いブルーグラスのシンガー・ソングライターですが,無知な私にとっては貴重な掘り出し物です.アメリカン・フォークなどの要素を併せ持つ大変トラディショナルなブルーグラスではあるのですが,しかしメロディーラインやアレンジは大変ロマンティックに感じられます.何故なんでしょう?それは例えば第3曲目の "Hills and Hollers" に色濃く現れています.Adrienne Young 自身の歌声は必ずしも伸びやかでも艶やかでもないのですが,バンジョーとフィドルの伴奏の中から浮かび上がってくる雰囲気は実に優しくロマンティック.これはアメリカ中南部の白人保守層には受けそうですねぇ.
アルバムタイトルは Benjamin Franklin の Thirteen Virtues から取ったそうで,アメリカという国が生まれたときの古き良き美徳,それらを大切なものとして深く考えている彼女の姿勢がこのアルバムを作るきっかけになったようです.以下にこの13の美徳をあげてみましょう.
- "TEMPERANCE. Eat not to dullness; drink not to elevation."
- "SILENCE. Speak not but what may benefit others or yourself; avoid trifling conversation."
- "ORDER. Let all your things have their places; let each part of your business have its time."
- "RESOLUTION. Resolve to perform what you ought; perform without fail what you resolve."
- "FRUGALITY. Make no expense but to do good to others or yourself; i.e., waste nothing."
- "INDUSTRY. Lose no time; be always employ'd in something useful; cut off all unnecessary actions."
- "SINCERITY. Use no hurtful deceit; think innocently and justly, and, if you speak, speak accordingly."
- "JUSTICE. Wrong none by doing injuries, or omitting the benefits that are your duty."
- "MODERATION. Avoid extremes; forbear resenting injuries so much as you think they deserve."
- "CLEANLINESS. Tolerate no uncleanliness in body, cloaths, or habitation."
- "TRANQUILLITY. Be not disturbed at trifles, or at accidents common or unavoidable."
- "CHASTITY. Rarely use venery but for health or offspring, never to dullness, weakness, or the injury of your own or another's peace or reputation."
- "HUMILITY. Imitate Jesus and Socrates."
なんと,このアルバムにはこれら13の美徳をリストした小さなパンフレットが付いてきますが,これは Benjamin Franklin の時代の復刻コピーだそうです.これも彼女の熱意というか,偏執狂ぶりを表しているのかもしれません.
現実生活では Food Routes Network という運動を支持しているらしく,ライナーノーツにも記述があります.これは日本では食べ物の地産地消とほぼ同じ意味で,ローカルな食べ物,地域に根ざした生活を大切にしようということのようです.良い意味での保守主義やエコロジーにつながります.Food Mileage という言葉を聞いたことがある人も多いと思いますが,食べ物を遠くの産地から輸送するのにどれだけのエネルギーが消費されているか,そのことを良く考えましょうという運動です.日本人は世界でも飛びぬけて Food Mileage の高い食生活を送っているので,大いに反省すべきですね.
このアルバムは2005年のリリースで彼女の第2作目のアルバムだそうですから,まだまだこれから期待できます.録音に関して特筆すべきは,全曲を Otari の2インチ・24トラックのレコーダでアナログ録音し,それからデジタルでマスタリングしたこと.後者のエンジニアはこの業界のお約束の Gary Paczosa です.少し注文をつけるとすれば,曲作りやバンドの構成などに関して,もう少し商業的に当たりを取る方向を目指しても良いように思います.彼女の禁欲的な姿勢は好感が持てるものですが,しかし商業音楽として仕事をしている以上,その受け手であるリスナーを楽しませることにも心を砕くべきでしょう.その結果として商業的に当たりを取ることがあっても少しも恥ずかしくはないと思います.
| 固定リンク | 0
「音楽」カテゴリの記事
- パリ・オリンピック開会式に寄せて(2024.08.31)
- 音楽ライブラリを再構築(2023.04.28)
- Willie Nelson 珠玉のデュエット集(2022.09.08)
- 梅は咲いたか桜はまだかいな(2021.02.27)
- いよいよ投票(2020.11.03)
コメント