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2007/05/06

現代の市街戦を疑似体験して思うことあり

ブラックホーク・ダウンスペシャル・エクステンデッド・カット 完全版 出演:ジョッシュ・ハートネット, ユアン・マクレガー,監督:リドリー・スコット

戦争映画に徹底したリアリズムを持ち込んだ記念碑的な作品は Spielberg 監督の "Private Ryan" (レビューはこちら)であることには大方の異論はないでしょう.綿密な時代考証を経た兵隊の階級ごとの軍服や携行装備,それぞれの武器の動作音,銃弾が走る音,そして実際の戦場の地獄絵図・・・兵士の腕や足が吹っ飛び,はらわたが飛び出し,上半身だけになった死体・・・アメリカではこの映画の公開後,かつての兵士たちが戦場の悪夢を思い出し精神的に苦しむ症例が多発,在郷軍人会が対策に乗り出したというエピソードがあるくらいリアリズムに徹した映画だったことは記憶に新しいところです.

Private Ryan は第二次大戦を舞台にした映画でしたが,現代ではあのような正規軍同士の大規模な戦闘は起こりえず,正規軍対ゲリラ,正規軍対テロリスト集団,という戦闘がほとんどです.携行ミサイルを持った都市ゲリラを相手に正規軍が市街戦を戦うとどうなるのかを,実話を元に映画化したのがこの Blackhawk Down です.この映画も Private Ryan の系譜をひく戦場リアリズム映画の一つと言ってよいでしょう.タイトルの "ブラックホーク" とはシコルスキー社の軍用ヘリコプター.

詳細は数々のファンサイト (例えば *1, *2) などを見ていただくとして,私が最も印象に残ったのは,撃っても殺しても地底から湧いて出てくるような数の民兵たち,それも死を恐れず自らの身を挺して攻撃してくる,そのような相手に遭遇してしまったとき,私たちはどのような感情を抱いてしまうのかということです.恐怖?絶望?怒り?

ソマリアの民兵に当てはまるかどうか知りませんが,「いわゆる」イスラム原理主義者たちにとって,それが聖戦であると規定されたら,それで死ぬことは天国での永遠の愉悦を約束される,というご都合主義の教義解釈が行き渡ってしまったため,戦闘や自爆テロで命を落とすことを厭わない若者たちが大勢生まれました.これについてはつい先日紹介した "誇りを持って戦争から逃げろ!(新書)" で「無限小の論理」という心理学的解釈がされていますし,昨年紹介した映画 "シリアナ" でもテロリストグループの情宣活動によって自爆テロに赴くに至る少年の心理プロセスが描かれています.

いわゆるイスラム原理主義はやっかいですね.日本の皇国教育のもとでさえ,特攻隊員が「天皇や国体護持のためではなく,家族や恋人などの身近な人たちを守るために死にに行くのだ」と自らに言い聞かせなければならなかった健全性に比べると,イスラム原理主義の狂気とおぞましさが際立ちます.死を恐れない兵士は最強の兵士ですから,イスラム過激派との戦いは長引くと見るべきでしょう.

そういう連中が殺しても殺しても湧いて出てくる恐怖.アメリカの特殊部隊はその恐怖感と戦っていたように思います.その恐怖に駆られて米兵が機関銃やバルカン砲を連射すると,薬きょうがそれこそ滝のようにジャラジャラと落ちてきます.その臨場感は大変良く描けていた映画だったと思います.ヘリコプターが墜落するシーンも大変リアル.回転翼機の墜落は巨大なロータが飛散する凶器となって大変危険なのですが,どうやって撮影したのか大変良く撮れています.この映画を通して現代の市街戦がいかなるものか疑似体験できる,そういう映画なのです.

しかしながら,この戦闘で米兵の死者はたったの19人だったのに対して,民兵側は約1000人が死んだそうです.この違いはいったい何でしょう?しかもこの戦闘を経ながら,アメリカは政治的にこの地域で勝利したわけでもありません.何のための戦闘だったのでしょう?

ところで,現代のアメリカ市民社会はこの19人の死者の数さえ容認できないほど自国の兵士の死に絶えられなくなってきました.そこで必要となるのが最前線で戦ってくれる同盟国(属国)の兵士たちです.憲法改正後の日本がその役割を負わされる可能性は十分にあります.アメリカの軍産複合体制にとっては,高価な兵器をたっぷり買ってくれて,しかも前線で米兵の代わりに命を落としてくれる,それこそ同盟国(属国)として使い出十分な国の一つとして,日本を照準に収めていることは間違いありません.

リアルな戦争映画はそこまで考えさせてくれる良い題材です.

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