死臭の中にも繊細な女性心理が光る警官小説
あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (単行本) - Laurie Lynn Drummond (原著),駒月 雅子 (翻訳)
一年以上前に購入して読み始めたものの,老眼が進んだ眼にとって通勤電車の中での読書が辛くなり,放っておいたものを気を取り直して再び読み始めました.そして書評での評判どおりの素晴らしい作品であることを確認した次第です.
実際にルイジアナ州バトンルージュ市の警官を務めたことがある作者ならではの短編集です.犯行現場,特に緻密でリアルな死体の描写は読み進めるのが辛くなるほどですが,同時に,女性警官ならではの繊細な感覚,職業観,人生観が通奏低音になっており,淡々とした描写ながらも深い読後感をもたらしてくれるのがこの作者の魅力でしょう.
普通の短編集と思いきや,同一人物の若いときが,ある短編で一人称で,後年は,異なる短編で三人称で語られ,多面的で深みのある人物描写になっている流れがあったり,かなり長めの中篇で物語が二転三転してはらはらさせられたりと,そう単純ではありません.この構成の特異さもこの作者の魅力の一つと言ってよいでしょう.
この小説の題名となったフレーズの元となるミランダ警告とは以下のようなものです.
- You have the right to remain silent.(あなたには黙秘する権利がある)
- Anything you say can and will be used against you in a court of law.(供述は,法廷であなたに不利な証拠として用いられることがある)
- You have the right to have an attorney present during questioning.(あなたは弁護士の立会いを求める権利がある)
- If you channot afford an attorney, one will be provided for you.(もしも自分で弁護士を依頼する経済力が無ければ,公選弁護人をつけてもらう権利がある)
詳細な解説は Wikipedia のこちらの記事で見ていただきたいのですが,アメリカの警官が被疑者を拘束する前に述べるいくつかの警告文です.アメリカのテレビドラマを見ておなじみの方も多いことでしょう.この短編集はこの警告文から題名を採っており,いかにも警官の視点で書かれた物語であることが良くわかります.
書評では高評が多く,アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀短篇賞なども受賞した有名な作品なのですが,重い内容が乾いた文体で語られるので,読むのはあまり楽ではありません.口の中が酸っぱくなってくることもあります.生理的心理的に辛い読書になってしまう人がいるかも.ただし日本語訳は大変秀逸で絶賛に値します.
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