父と子の間に詩情豊かな橋を架けるロードムービー
山の郵便配達 - 出演:トン・ルゥジュン (滕汝駿),リィウ・イェ (劉燁),監督:フォ・ジェンチイ (霍建起)
2007年12月に開局した新しいBS放送チャネルである "BS11デジタル" の番組 "高野悦子の名画劇場" で放映されたものを録画して楽しみました.1999年の作品.監督のフォ・ジェンチイは中国第6世代と言われる実力派.見た目の派手さやアクションなどは全く無く,淡々と,しかし美しい映像で,父と子の心の交流を詩情豊かに描くことに成功し,数々の賞を受賞しました.日本でも岩波ホールでの上映が口コミで評判を呼び,多くのファンを生みました.
中国湖南省西部の山間地帯には,徒歩で郵便物の集配を行う郵便配達人がいます.一日約40kmの山道を歩いて少数民族の村々を訪ね歩き,郵便集配だけではなく,孤独な老人の相談相手になるなど人々との交流を計ることを自らの仕事と任じている父親.しかし歳をとり足を悪くして息子に後を継がせます.その引継ぎの2泊3日の旅を,親子二人と道案内の犬一匹が辿ります.その行程で父と息子が交わす会話,心の動き,そして人々との交流が,淡々と,しかし美しく描かれています.ロードムービーとしては大した盛り上がりもエピソードも無いのですが,親子の心のひだを誇張することなく描き,それがかえって見るものに深い感動を与えることに成功しています.
まず感じるのは映像美.黒澤にかなり影響を受けていると思われる美しい映像がそこここに現れます.次に感じるのはキャスティングの贅沢さ.山間部にしては妙に整った顔立ちの主人公や女性たちが出てきますが,これは商業作品として大目に見ることにしましょう.そして,次男坊という名のシェパード犬の驚嘆すべき自然な動き.しかし何といっても父親と息子の心の交流がハイライトです.地味できつい仕事.しかし父親と引継ぎの旅を歩いてみて,息子はしだいにこの仕事の意義を理解していきます.旅を終えて,父親は息子に後を託す安堵を感じ,息子はこれから背負う荷の重さに気分が奮い立つのです.
徒歩で映写機材を担いでチベットの山あいの村々に映画を見せて回る巡回映画隊 "夢の配達人" という職業があることを NHK のハイビジョン特集で知りましたが,この配達人も薬を持ち歩いて僻地の村々で分けてあげたりと,単なる映写技師以上の仕事をすることを自ら任じていました.なんと高潔な職業規範,職業倫理なのでしょう!大変地味で目立たない,しかし世界中にこのような人たちは多いのではないでしょうか?こういう人たちがいる限り,まだまだこの世も捨てたものではありませんね.
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