あなたの死を心から悼む
アラスカ 星のような物語 写真家・星野道夫 はるかなる大地との対話 - 出演:オダギリジョー
NHK の BS hi で放映された映像を録画して繰り返し観ては噛みしめ,酒を飲みながら観ているときには時々涙を流しています.
星野道夫が千葉県市川市の小学校の卒業文集に記した言葉は,なんと "浅き川も深く渡れ".こんなことを書く小学生が一体いるのでしょうか?星野道夫の最大の魅力は,彼の National Geographic クラスの素晴らしい映像美もさることながら,映像と一体となった彼独特の数々の箴言です.上記以外にしばしば紹介されるものには,"時々,遠くを見ること" や,"厳しい冬の中に,あるものは美しさを見る.暗さではなく,光を見ようとする.それは希望といってもいいだろう","冬をしっかり越さないかぎり,春をしっかり感じることはできない" などがあります.いずれも,星野道夫の映像と合わせると,深い味わいを得られるものばかりです.
星野道夫の写真集は,そういうわけで,写真集であると同時に一つの詩集ともなっており,それがなかなか胸に響く,それで熱心な固定ファンが増えロングセラーが多い,ということなのだろうと思います.動物写真家にとって National Geographic 誌に載った時点で商業的な成功は半ば約束されたようなものですが,彼の場合には,さらに自らの言葉という付加価値がそれをより高いレベルに押し上げた,ということができると思います.もちろん,不慮の事故による早世が,伝説的価値を高めている点も否定できないでしょう.一方,彼の言葉は日本語なので,市場は日本国内に限られているという制約はつきまといます.
さて,この番組の取材班が,星野道夫の写真集の動画版と見まごうばかりの数々の素晴らしいハイビジョン映像をものにしたことは驚異的です.Katmai National Park and Preserve は Brooks Fall の Brown Bear の映像や,Denali National Park and Preserve の Moose や Grey Wolf の映像も素晴らしいのですが,特に Caribou の渡りの映像はあまりに感動的.この映像を撮るために取材陣がどれほどの日数と苦労を重ねたかを想像すると,それはもう涙無しには観ることはできません.
ただしこの番組の編集では,所々に日本の若いサラリーマンのあまり意味のない映像が加えられており,これはちょっと興ざめ.全編で1時間50分もあることも気軽に観る気を失わせます.サラリーマンの部分を取り去り全体を短く55分程度に収めた版も放映されましたが,私はこちらのほうをお勧めします.
星野道夫の死因は,カムチャツカ半島でのテレビ番組取材の野営時にヒグマに襲われたことですが,これには色々と尾ひれがついています.一般に,熊が生息するベア・カントリーでは,食べ物(特に臭いが強いチーズやソーセージ)をテントの中に持ち込むことは厳禁なのですが,現地では地元テレビ局がヒグマを定期的に餌付けしていた,そして野外での食事の後で一人眠っていた星野道夫のテントに,人馴れした熊が食事の匂いに引きつけられてやってきて,食事の匂いが残っている星野道夫を襲った,日本から来た取材班は例によって "夜は宴会" だったのですぐには気づかず,助けることもできなかった,云々.用心が足りなかったと言えばその通りなのですが・・・
本当に惜しい人を亡くしました.地球温暖化がこれだけはっきりした現在,彼が愛した極北の土地の変化を,彼ならばどのような映像として残していくのか,あれこれ想像して思いは尽きません.
| 固定リンク | 0
| コメント (0)
| トラックバック (0)
最近のコメント