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2008/04/13

ドキュメンタリーを見るようなリアルさ

シンドラーのリスト スペシャルエディション - 出演:リーアム・ニーソン,ベン・キングズレー,監督:スティーブン・スピルバーグ

衛星映画劇場で放映されたので録画して鑑賞しました.スピルバーグ監督がアカデミー作品賞,監督賞を受賞した,大変思い入れの強い映画です.全編で3時間以上という長い映画ですが,プロットは大変有名なのでここでは詳細は省略して,この映画の特徴として感じたことをいくつかあげてみましょう.

リアリティ
まるでドキュメンタリーの映像を見るような,冷徹で淡々とした演出とカメラ・アイが衝撃的です.ゲットーでのユダヤ人たちの暮らしは "戦場のピアニスト" でも描かれていましたが,こちらは虚飾無しのまるでニュース映像のよう.強制収容所の中の暮らしぶりや選別のシーンなども大変リアルで心が揺さぶられます.ショックだったのは,ラストの近くで,ナチスの強制収容所長アーモン・ゲートの絞首刑のシーン.椅子を上手く蹴ることができず二度三度と椅子を蹴るさまがあまりにリアル.こんな撮り方もあるのですね.

プロフェッショナルなエキストラ
日本の時代劇でもハリウッドの大作でも,大勢のエキストラを使うシーンではよーく見ていると素人臭いエキストラが何人かいるものです.しかしこの映画は違いました.彼らはエキストラではなく全員が俳優なのでしょうか?あまりに正しい動き,正しい表情をしています.良いカットばかり選んだのか,それともエキストラ含めて入念なリハーサルをやったのか,はたまたプロフェッショナルなエキストラばかりを選んで自然に振舞わせたのか?この映画の制作予算は低額だったので,エキストラや衣装などは全て現地調達だったそうですが,それにしても素晴らしい出来です.

モノクロ撮影の上手さ
その時代の雰囲気を出すためにわざとモノクロで撮影することは広く行われていて,例えば "ペーパームーン" などはその代表だと思うのですが,この作品でもそれが全編に渡って行われています.写真に詳しい人ならば,モノクロフィルム(パンクロマティック・フィルム)では,コントラストを上げるために黄色や橙系のフィルタをかけることを御存知でしょうが,ペーパー・ムーンでは最もコントラストが強く出る赤系フィルタを使用しました.シンドラーのリストでも一部フィルターは使われたでしょうが,室内照明や肌の陰影の出し方,衣装の色柄などはモノクロフィルムに合わせたチューニングが必要です.私が感心したのは室内の照明.大変上手くできています.例外として,赤いコートの少女だけはパート・カラーで表現され,この技法がシンドラーの心象風景を表す重要なエピソードに使われています.

また低額予算のために,スピールバーグはステディ・カムはおろかクレーンさえも使わなかったそうで,少ないカット数,撮り直し最小限の制約が,ドキュメンタリー風の映像美を生んだと言っても良いのではないかと思います.

ベン・キングズレーの演技
素晴らしいの一言につきます.見た瞬間にガンジーを演じた人であることがわかりますが,やがてそんなことはどうでも良くなり,この俳優の素晴らしさに引き込まれます.

イツァーク・パールマンの演奏
音楽は映画音楽のヒット・メーカーである John Williams が担当しましたが,その曲を有名なイスラエルのバイオリニストである Itzhak Perlman が演奏しました.概してユダヤ人には学者や芸術家が多いのですが,彼はその中でも抜きん出た存在です.日本にも大勢のファンがいるはずです.スタッフロールには彼の名前があるのですぐに気がついた人も多いことでしょう.

原作は事実に基づいているわけではないため,映画のシナリオでは1,000人以上のユダヤ人の命を救った実業家の美談になっていますが,これは史実には反しているそうです.シンドラー氏はアーモン・ゲートへの収賄容疑で投獄されていてユダヤ人を救うチャンスは無かったそうですし,シンドラー夫人も夫が美化されすぎていると話しているそうです.

大変長い作品ですし暗いエピソードが多いので観るのは結構疲れるのですが,見ておくべき作品の一つであることは間違いありません.

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コメント

ほぼ同日に,ポランスキーの「オリバー・ツイスト」を観たのですが,こちらのベン・キングズレーにはなかなか気がつきませんでした.ガンジーになったり,泥棒の老醜を演じたり,この人はなかなか手だれの役者ですね.

投稿: 俊(とし) | 2008/04/15 22:30

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