« 庭の樹木の花々 | トップページ | モッコウバラ »

2008/04/29

味わい深い父親三部作

推手 - 出演:ラン・シャン,ワン・ボー・チャオ,監督:アン・リー
ウェディング・バンケット - 出演:ウィンストン・チャオ,ミッチェル・リヒテンシュタイン,監督:アン・リー
恋人たちの食卓 - 出演:ロン・ション,ヤン・クイメイ,監督:アン・リー

これは最近の衛星映画劇場の特集から.アン・リー(李 安)監督の父親三部作が放映されました.この三部作とは父親と子供たちの関係がテーマになっている一連の作品.共通しているのは監督だけはなく,父親役を演じるのがラン・シャン(郎 雄)という台湾の国民的俳優であること.この俳優の存在感が一連の作品を貫く特徴となっており,父親三部作はこの俳優さんで持っているといっても過言ではありません.

まず最初の作品は "推手 (Pushing Hands)" です.これは太極拳の技の一つ.アメリカ人女性と結婚してアメリカに住む台湾人の息子夫婦の所に,父親が同居するようになりますが,アメリカ人の嫁とは言葉は通じませんし,食べ物も生活習慣も異なります.嫁は閉塞感で息が詰まり,父親もそのことがわかって別居を決意.生活のために中華レストランで皿洗いの仕事を始めるのですが,意地悪な雇い主と一悶着起きます.そのときに太極拳の達人としての威力を発揮・・・という展開ですが,最終的には同じような境遇に置かれた老婦人と仲良くなり,異国の中国人コミュニティの中で生きていく希望を持ち始める,というお話.ラン・シャンの味のある存在感が見事.この91年の作品が実はアン・リーのデビュー作なのです.

次の作品は "ウェディング・バンケット" です.台湾出身でニューヨークに仕事を持ち,しかも白人のゲイのパートナーと同棲している若者が,それを知らない台湾の両親からしつこく結婚を勧められ,仕方なく偽装結婚を計るのですが,両親が結婚式にやってきたうえに父親の知人のレストラン主が大披露宴をやろうと言い出しててんやわんやというお話.ラン・シャンの存在感は前作ほどではありませんが,華僑の若者たちの結婚観や結婚にまつわる習慣が良く描かれていて大変興味深いです.日本の結婚式の習慣と良く似ているのに驚かされます.偽装結婚の相手ウェイウェイ役の女優高金素梅(メイ・チン)がなかなか良かった.この人は何とまあ!今では反靖国の政治闘士なんですね.この作品は93年のベルリン金熊を取りました.

最後の作品が "恋人たちの食卓",三部作の中で私が最も好きな作品で,ラン・シャンの存在が最も良く光っています.この作品ではラン・シャンは引退した有名な料理人.大きなホテル(台北の圓山大飯店が舞台になっていました)で働いていました.今でも料理の腕は衰えておらず,毎週末には自宅で手作りの豪華な夕餐を三人の娘とともに摂るのが楽しみ.しかし最近味覚がおかしく,うまく味付けをすることはできません.三人の娘は,それぞれに恋愛,結婚,キャリアなどに悩みを抱え,しかも父親を思いやるあまり自由な決断を下せないでいます.しかし,まず大学生の三女が友人の恋人を奪う形で妊娠・結婚,そして長らく恋とは無縁だったクリスチャンで教師の長女も,色々ないきさつの末に同僚の教師と結ばれます.そういう状況の中で航空会社に勤めるキャリアウーマンの次女は海外赴任の話を断るのですが,友人がアメリカ人の夫と離婚して帰国してからてんやわんやの騒動に巻き込まれます.最後にとんでもないオチがついているのですが,ちょっと悪趣味で,これは監督がサービスし過ぎでしょう.

この映画の観どころは数々の中華料理の調理場面.手元をアップで撮っていますので詳細が良くわかり,素晴らしいの一言に尽きます.ラン・シャンはベテランの料理人の存在感を非常にうまく演じるとともに,娘たちを思いやる父親の心境を見事に表現.驚いたのは次女役の女優,呉 倩蓮(ン・シンリン,またはウー・チェンリン,ウー・チェンリェン)の演技と料理の上手さ.最初はちょっとどぎつい感じで好感が持てませんでしたが,後半になるにつれて,父親を思いやる娘の優しさを非常にうまく演じました.ライスペーパーを焼く手さばきがこれまた見事.

全体として,亡くなったラン・シャンへの追悼の気持ちに満ちた特集でした.NHK 衛星映画劇場の面目躍如たるものがあります.

| |

« 庭の樹木の花々 | トップページ | モッコウバラ »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 味わい深い父親三部作:

« 庭の樹木の花々 | トップページ | モッコウバラ »