秀作だったんだね「空軍大戦略」
空軍大戦略 (Blu-ray Disc) - 出演:サー・ローレンス・オリビエ,監督:ガイ・ハミルトン
1969年の映画.日本での公開は私が中学生の頃.同級生たちがこの "空軍大戦略" を観に行って,凄い凄いと騒いでいたのを今でも覚えています.しかし当時の私は見に行けず.とうとう50代の今頃になってやっと観ることができました.しかしこの映画は中学生ごときに味わい尽くせるものではありません.あくまで大人向けの,しかもかなり質の高い映画です.
内容は言わずとと知れた "バトル・オブ・ブリテン" の再録です.第2次世界大戦のヨーロッパ戦線の緒戦,楽々とフランスを占領して意気上がるナチス・ドイツはイギリス上陸を企み,その前哨戦としてイギリスの制空権を獲得するためにドイツ空軍の戦闘機や爆撃機を繰り出します.それを迎え撃つのがイギリス空軍 RAF(The Royal Air Force) です.この両者の戦いを,複数の登場人物を平行して登場させて淡々と描く叙述式の映画です.登場人物たちの暮らしぶりや気分の浮き沈みがうまく描かれており,単なる戦争娯楽映画ではないことが良くわかります.イギリス側の被害も正直に描かれ,空襲されたロンドンの火災シーンもなかなかリアルです.
しかし何と言っても素晴らしいのは,軍用機マニアなら目を剥いて喜ぶ実機撮影でしょう.最初に映像を見たときには "ん?うまく擬装してあるなぁ!原型機は何だろう?" と思ったのですが,見れば見るほどスピットファイアもメッサーシュミットBf109も本物です.1960年代後半の時点で実機による撮影が可能だったのは,中立国だったスペインがこれらの飛行機を保有していたからだそうです.同時期の戦争映画でも,戦車戦の "バルジ大作戦" の撮影では,実機とは全く異なる機種が使われ,"何じゃこれは?" という場面が多かったのとは大違いです.この映画はドイツ軍が英語をしゃべるなど,ハリウッドのセンスの無さが顕わになったという意味でも,反面教師として対比されるべき作品です.
また多数の空中戦シーンが出てきますが,プロペラ機による空中戦は速度が遅いので機の動きが素人にもわかりやすく,古典的なドッグファイトを楽しめます.現代の航空戦は長大な距離を隔ててのミサイルの撃ち合いなので,このような空中戦は有り得ません.
メッサーシュミットの航続距離の短さが映画の中でも英独双方で繰り返し語られますが,ドイツ本土からイギリス海峡を越える爆撃機の護衛もできない程度だったのですね.もしもドイツがゼロ戦を持っていたら,バトル・オブ・ブリテンはドイツが制していたかもしれないと言われますが,これはゼロ戦が航続距離を重視して設計された世界最初の戦闘機だったからです.
特筆すべきは,イギリス空軍でのポーランド人部隊やカナダ人部隊の活躍です.バトル・オブ・ブリテンでの撃墜王ランキング一位はチェコスロバキア人ですし,ポーランド人部隊は平均の2倍以上の撃墜率を誇っていたそうですから,大したものです.ナチス・ドイツをやっつけるために,ナチスに占領された国々から結集した軍人たちが頑張っていたのですね.映画の中では,ドイツ軍はドイツ語で,ポーランド人はポーランド語でしゃべると言う,ごく当たりまえのことが貫かれいるところも好感が持てます.
空軍婦人部隊の分隊長マギー・ハーヴェイを演じたスザンナ・ヨークが,軍人にしては大変色っぽく可愛いのですが,髪形が典型的な60年代スタイルなのが面白いところ.ローレンス・オリビエはさすがに空軍大将という良い役をもらって好演しています.
なお,今回から Blu-ray Disc が発売されているものに関しては,DVD ではなく Blu-ray のほうを参照するように変更しました.
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