軽妙だが真剣な改悛逃避劇
バティニョールおじさん - 出演:ジェラール・ジュニョー,ジュール・シトリュック,監督:ジェラール・ジュニョー
"バティニョールおじさん" は2002年公開の映画.本家フランスの Wikipedia での扱いは実にあっさりしたものです.監督・主演のジェラール・ジュニョーは,2004年の映画 "Les Choristes(コーラス)"の大ヒットで一躍有名になったフランスの俳優・映画監督ですが,今回ご紹介する映画は,その2年前に公開された作品.コーラスは大変感動的な映画なのですが,しかしそのモチーフは "いつも心に太陽を" とほとんど同じで,あまり新鮮味はありません.
今回のバティニョールおじさんは,ミニミニ版の "シンドラーのリスト" と感じました.平凡な一市民の肉屋としてドイツ占領下のパリに生きる中年男のバティニョール.娘の婚約者で反ユダヤ主義の劇評家が隣人のユダヤ人を密告したことから,その息子シモン・バーンシュタインの逃避行を助ける破目になってしまいます.
ドイツ占領下のパリの市民の生き様が良く描かれているのが大変興味深いです.ナチスに協力して利益を得ようとする者たちがいれば,自らの小市民的な安寧を願いながらも良心との葛藤に苦しむ者たちもいます.主人公もそのような一人.またユダヤ人の逃避行にも案内や手引きをするプロの助けが必要であり,そこでモノを言うのはカネであるという悲しく普遍的な真理が観る者に突きつけられます.
それでも全体として暗く悲しい物語にならないのは,無垢な子供たちを主軸にしたシナリオだからでしょう.このあたりの軽妙さは監督・主演のジェラール・ジュニョーの本領発揮です.占領軍のドイツ将校たちの日常も,彼らの非情さと人間性とが大変良いバランスで描かれています.
最期のシーンで,バティニョールが子供たちとともにスイス側に越境してしまうところは,予想されたシナリオではありながら,一人の男の改悛,精神的な成長,決然を象徴するシーンであり,深刻めいた雰囲気は全く無いながらも,感動的です.
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