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2008/12/21

痛恨の原油価格下落

ひところは WTI(West Texas Intermediate;テキサス西部の低硫黄軽質油のこと,NYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所) Light Sweet Crude とも呼ばれる)の最高値が 147.27 ドル/バレルにまで達して高騰を続けていた原油価格が急落しています.直近の NYMEX の WTI 価格は下記のようになっています.だいたい42ドル台を推移しているようです.昨年から今年にかけての原油価格の乱高下のお陰で,かつては専門用語であった "WTI" も今では普通にニュースで語られるようになりました.

Nymex_wti_20dec2008

昨今の地球温暖化問題は,要は化石燃料の問題です.地球が過去数10億年かけて地殻に蓄積してきた炭化水素を,人間がここ200年ほどの間,最近50年ほどは特に激しく消費しているため,炭化水素が燃えて発生する二酸化炭素の濃度が上がっているのです.二酸化炭素は温室効果を持っているため,太陽から地球に降り注ぐ太陽の輻射エネルギーが宇宙空間に逃げにくくなり,その分地球の気温が高くなって,気候や生態系に悪影響をもたらす,というものです.

化石燃料を大規模に使用する以前は,人間は主として水力風力,そして木材の燃焼にエネルギーを頼ってきました.水力や風力はもちろん再生可能エネルギーです.木材を燃やすことでもいったんは二酸化炭素を発生しますが,燃やした木材と同量の木が再生生長することが保証されれば,木は同量の二酸化炭素を光合成で吸収するので,長期的に見れば大気中の二酸化炭素は増えも減りもせず,これも再生可能エネルギーと見なすことが出来ます.現在では木材はバイオマスという概念に拡張されていますが本質は変わりません.

地球温暖化問題は,化石燃料の枯渇と人間の智慧との時間の競争です.以前にもこのブログで書きましたが,長期的に考えると,例えば10万年後の子孫に現在と同様の文明的な生活の質を保証しようと思うと,私たちは何をしなければならないでしょうか?最も本質的には,

  1. 再生可能なエネルギーのみに依存する文明に転換する
  2. 再生可能なエネルギーで充足できるだけのレベルに人口を減らす
の二つを実現しなければなりません.しかも,この二つを
  1. 化石燃料が枯渇する以前に成し遂げなければならない
のです.最初の要求に関しては,原子力,核融合,水力,風力,太陽光,バイオマスなどの技術開発が進められていますが,残念ながら原子力と核融合は長期的には再生可能なエネルギーではありません.従って,人類のこれからの長い歴史の末には,私たちの子孫は水力,風力,太陽光,バイオマスなどにのみ依存せざるを得ません.しかしならが,これら純粋に再生可能なエネルギーで賄えるエネルギー量は,現在の化石燃料を大量に燃やして得られるエネルギーに比べれば微々たるものなのです.そこで2番目の要求がやってきます.この要求は非常に深刻で,これに平和裏に応えられるかどうかが人類の智慧に問われています.これら二つの要求事項は,もちろん化石燃料を使える余裕があるうちに成し遂げられなければなりません.これが3番目の要求です.

上記の人類の必然の歩みは,化石燃料が高騰すればするほど加速されることは容易に想像がつくでしょう.もちろん価格高騰により短期的にはより多くの化石燃料が開発・採掘され消費されるという悪循環を生むこともあるでしょうが,長期的には再生可能エネルギーに人類は向かわざるを得ません.その過程では,飢餓と紛争が立て続けに起きるという悪夢のような時代を通らざるを得ないのかもしれません.

しかし早く手を打てば打つほど,良い方向への準備が進むことは間違いありません.そういう意味で,昨今の原油価格の高騰は文明を転換させるきっかけに出来るはずのものだったかもしれないのです.その価格がひどく下落してしまったのは私にとっては痛恨の極みです.中長期的には希少性が高まる原油の価格は上昇していくはずですが,それが早ければ早いほど人類が助かる可能性は高まります.WTI で言って100ドル/バレル程度が常識的な原油価格として安定すれば,再生可能エネルギーの開発は大いに加速されると期待しています.

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コメント

俊さん

きたきつねも同じような考え方をしています。原子力、核融合などは、石油があってこそのエネルギー利用でしかありません。

先日も大先輩に、オイルピークや資源枯渇にどうしたらいいと聞かれましたが、「行くところまで行くしかない」と答えました。

なぜなら、俊さんの書かれている三条件を果たすには、社会システムの大きな転換が必須ですから、色々な国、集団などから猛烈な抵抗があるので、調整が付かないと思うからです。

後戻りできないことが地球人全体で共有できるには、現象が肌身をもって感じることができるまでは難しいのではないでしょうか。

投稿: きたきつね | 2008/12/29 12:49

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