消化不良の最新宇宙論
宇宙論入門―誕生から未来へ(岩波新書)(新書) - 佐藤 勝彦(著)
書店で新書の新刊として平積みになっているのを手にとって買い求めました.著者の名前は宇宙のインフレーション理論の提唱者として非常に有名なので,それに惹かれたという面もあります.最新の宇宙論を出来るだけ平易な言葉と概念で,一般読者にもわかるように解説するという目的は,部分的には達せられたと言うべきでしょうが,私にとっては消化不良の部分が多く残りました.
宇宙論は今日なお非常な速さで進展している学問分野です.10年前の知識がすでに古新聞となっている分野なので,数年おきに最新の知識を充電しなければついていけません.そう思ってこの本を読み進めたのですが,最新の宇宙論が要求する基礎的な知識の幅と深さが依然とは比べ物にならないくらい高度になっており,基礎知識の解説が不十分なまま論を進められても消化不良に苦しむだけでした.私自身が理解できずに立ち往生してしまったのは,(1) 真空のエネルギー,(2) 真空の相転移,(3) 暗黒物質,(4) 暗黒エネルギー,(5) ブレーン宇宙,(6) 超ひも理論,などなど.いずれも最新の量子物理学の基礎知識を要求しており,量子電磁力学の場の量子化くらいまでが限界の私の知識ではまるで歯が立ちません.
20世紀に飛躍的な進歩を遂げた現代物理学.それは相対論と量子力学という二つの革命が引き金になったわけですが,この二つはいずれも私たちの生活常識とはかけ離れた概念を説くものです.このかけ離れの極限を扱うのがこの本が説く現代宇宙論です.本の分量は2倍以上になってもかまわないので,もう少し基礎知識を解説しながら順を追って概念をレベルアップしてくれるような本の出版を期待したいと思います.
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