ミクロの決死圏 [DVD] - 出演:ステーブン・ボイド,ラクエル・ウェルチ,監督:リチャード・フライシャー
私が小学生の頃に公開された SF 映画の古典です.私は同級生たちが映画館で観て凄い凄いと騒いでいたのを尻目に,50代になるまで実際に観ることは無く,つい最近 NHK の衛星映画劇場で初めて楽しみました.あまりに有名な SF 映画なので,ストーリーはかなり細部にいたるまで知っていました.従って,鑑賞するときには主として出演者たちの演技の細部,周辺的なエピソードに注意を払ってしまいました.
まず観始めて最初に "ほうっ?" と思ってしまったのは原題 "Fantastic Voyage" です.確かにこの映画は同年代の "2001: A Space Odyssey" などに比べると,科学的な考証やリアリズムを指向せずに,むしろファンタジーの画作りをしている点など,"Fantastic" の形容が当てはまる作品になっています.日本語の題名はサスペンスを連想させるのですが,まあこれはどちらが良いとも言えません.
次に感心したのは配役.まずは主役というべき Stephen Boyd です.この人は "Charlton Heston" 主演のキリスト教創成期の大作 "Ben-Hur" で宿敵 "Messala" を演じ,強烈な印象を与えた人です.戦車レースで重傷を負いながらも会話で Ben-Hur と対決する名演技はあまりに有名.あごの先の肉が割れた好漢として大変印象的な人ですが,この人が現れたときには思わず拍手喝さいしました.
しかし,この映画で最も存在感を発揮していたのは "Raquel Welch" でしょう.危険な任務に志願した美人で真面目な科学者の役ですが,体にぴったりと合ったウェットスーツから豊かな胸が突き出しているさまは何ともセクシー.当然のことながら彼女はこの映画で一躍注目されるようになりました.その後 "恐竜100万年" でのビキニ様の原始人衣装のポスターはグラマー女優の代名詞のようになり,傑作 "ショーシャンクの空に" で主人公の独房の壁を飾るようになったのはあまりに有名なエピソードです.ちなみにショーシャンクで主人公の壁を飾ったピンナップ女優は,まず "Rita Hayworth",それから "Marilyn Monroe",その次がこの Raquel Welch です.
映画自体のストーリーについては省略しますが,人体の内部を微視的視点で内的宇宙 (Inner Space) ととらえ,そこで起こる様々な未知の現象や事件を経ながら,その宇宙を旅して任務を果たしていくという,ある意味で Space Road Movie とも言える作品です.血管内で赤血球や白血球と共に潜航艇が進む幻想的な風景は,この映画を特徴付ける強烈な印象を与えます.
一方,科学的にはおかしな点が満載で,こんな事あるわけないだろ!と突っ込みたくなるシーンも多いのですが,これは SF というよりはファンタジーなのだと自らを納得させて観ると結構楽しめます.患者の上半身の周りにたくさん置かれてせわしなげに首を振っているミニチュアのレーダーアンテナの動きが何とも滑稽で,これが出てくると思わず笑いがこみ上げてきます.また潜航艇との通信が無線ではあるもののモールス信号なのがとても変!一方,潜航艇からスクーバダイビングで血管内に泳ぎ出た隊員たちどうしは音声で通信しています.潜航艇や管制室の制御卓は無数のランプが点滅するのみで CRT による表示は一切ありません.この映画のわずか2年後に公開された "2001: A Space Odyssey" では,セルアニメとはいえ高度なフル CG スクリーンの制御卓が実にふんだんに使われていたことに比べると,何ともなぁ,という感じで,随所に冷戦時代,特に60年代前半の雰囲気が感じられますが,これは1960年代の作品に共通して言えることですね.
とにかくこの映画は Raquel Welch を鑑賞するために観る,というつもりで観ることをお勧めします.ちなみに彼女は1940年9月生まれなので,現在68才とのことです.
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