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2009/04/30

必読の世直しリーダーシップ論

国をつくるという仕事(単行本) - 西水 美恵子(著)

望湖庵日記の読者であれば必読の本です.

西水美恵子さんは元々は経済学者.研究休暇の一年間を世界銀行で過ごしたときに,世銀の "現場" の一つカイロで強烈な原体験を受け,それ以来 "世界から貧困を無くす" ことを使命とする世銀の活動に身を投じた人です.そして彼女がこの本で説くのは "リーダーシップ".それは,貧困を無くすための国づくりに最も必要なこととして身に沁みているからでしょう.しかも,著者が説くリーダーシップは政治家のそればかりとは限りません.自助自立の精神を以って共同体や社会を変革している草の根のリーダーたちにこそ,彼女は光を当てようとしています.

西水さんの一連の著作を私が知ったのは,それらが (独)経済産業研究所 (RIETI) の Web ページに掲載されていたからです.今から4年ほど前のことだったと思います.彼女は2003年12月から2008年11月まで RIETI のフェローでもあったので,その活動の一環として著作が掲載されているのです.彼女が世銀で担当していた南アジアに根深くはびこる "劣悪な統治".それは組織的な汚職収賄横領不作為などからなりますが,要は同胞の苦境を救うための金品(とその背景にある人々の善意)を,私利私欲のために横取りし,同胞の苦境を意に介さない行動様式全体を指すと考えてよいと思います.

西水さんの一連の話を読んで思い出したのは,私の友人で国連のある機関に職を得てバングラデシュに赴任した人が何かの折につぶやいた言葉,「だってあの国の役人連中は国を良くしようなんて全然考えてないのよ.私腹を肥やすことばかりに熱心なの.」1980年代,今から25年ほど前に聞いた言葉でしたが,まだ純真だった私はこれに相当ショックを受けました.

西水さんもこの現場に飛び込んでいきます.彼女が立派なのは,必ず貧困の現場に飛び込み,そこでホームステイをして現場の真実を自らの目で確かめ,現場の声に耳を傾けることです.そして正しいと思ったことを貫き通す.この考え方は後に世界銀行の組織改革にもつながったのだそうですが,とにかくその一貫した姿勢には胸を打たれます.この本では彼女の南アジアでの足跡が30数篇のエピソードとして語られますが,いずれも著者が実際に足を運び,見聞きしたこと,感じたことが綴られていて,しかも箴言・教訓満載です.日本の政治家,特に地方の小ボスたちに聞かせてやりたい話が多いのも,むべなるかな.

そして,著者が現場で最も痛感したのが,繰り返しになりますが "リーダーシップ" だったのだと思います.組織や社会は一人の優れたリーダーで大きく変わることが出来る,この経験と信念が草の根の開発援助の基本方針になっていることは,至極当然のことだと思います.

私は以前このブログで "テロリスト育成の三条件" として,"貧困","差別","劣悪な統治" を挙げました(*1, *2, *3)が,これはこれまでの西水さんの著作に触発され,ほとんど引用のつもりで書いたものです.世界から貧困を無くすということが,このように難しいこと,しかし,世界から貧困を無くすことが,日本の安全保障にとっても重要で価値のあること,そして何よりも,同じ人間としてこれらの問題を放っておく気分にはなれないこと,これらのことをもっと多くの日本人が知るべきでしょう.開発援助の現場がこのようなものなのだということを,初めて知る日本人も多いと思います.そういうところで活躍する人たちが,日本人も含めて,少なくないということも知っておくべきでしょう.この本が不景気で内向きになりがちな気分を打ち破るきっかけになってほしいと思います.

実はこの4月,西水さんはこの本の出版を記念して来日され,講演会やサイン会を催されました.私もその中の一つの講演会に足を運び,本にサインをしていただきました.ありがとうございました.なお,この本の印税は全額がブータン王妃が主宰するタラヤナ財団に寄付されるとのことです.実は私もこの財団に寄付をしました.寄付はこちらからできます.日本でもこういう国際的な寄付も税控除対象になってほしいものです.


参考として,だいぶ昔に読んだ本で,開発援助の現場についてジャーナリストの視点から書かれた本を紹介しておきます.

市民と援助―いま何ができるか(岩波新書)(新書) - 松井 やより(著)

古い本なのでとっくに絶版だと思いますし,日本の援助施策の後進性をジャーナリスト的に告発するタイプの本だったので,世評は分かれていたと思いますが,一つのエポックを刻んだ本であることは間違いありません.私はこの本で欧米の NGO やその活動について初めて知ると同時に,彼我の差を思い知らされショックを受けたことを覚えています.現在でもその差は縮まっているようには思いませんが,しかしペシャワール会や,ピースウィンズ・ジャパンなどの活動を見ると,規模の点では欧米の NGO にはかなわないけれど,価値観押し付け型ではない草の根の開発援助は,日本人ならではと期待しています.

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