若い詐欺師の生きがいとは?
キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン [DVD] - 出演:レオナルド・ディカプリオ,トム・ハンクス,監督:スティーブン・スピルバーグ
詐欺師を扱った小説や映画は昔から多くあるのですが,この映画 "キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン" は実在の人物,実話をもとに作られたということなので,内容には大変リアリティがあります.しかし詐欺師という人間の心理には古今東西共通なものがあるのではないでしょうか?その中心となるのは "現実逃避" ではないかと思います.つまり,辛く悲しく面倒くさい現実を見ないようにして,ひたすら自分にとって都合の良い仮想現実の世界に遊ぶという心理です.詐欺師が凄いところは,その仮想現実を自らの力で現実世界の中の小世界として作り上げてしまうところです.
その詐欺師はスパイという職業と極めて相性が良いのでしょう,私がこれまでに読んだ最高のスパイ&詐欺師小説は,ジョン・ル・カレの "パーフェクト・スパイ(上,下)" です.自伝的とも言われる非常に悲しい話なのですが,これほど詐欺師とスパイとの相性の良さを知らしめた作品も少ないでしょう.小さな嘘をより大きな嘘で次々と塗り固めていく詐欺師の生き様が,その内面も含めてこれほど克明に語られた小説は他にありません.イギリス文学の最高峰とまで呼ばれることの多い作品なので,こちらもぜひ一読ください.
さて,この映画の主人公も,詐欺師の父親から多くを学んで詐欺師としての道を歩み始めます.詐欺師は父子相伝的な面が多いのでしょうか?身近に接していないと伝承できないような部分が多いのかもしれません.主人公はまだ16歳のころからすご腕を発揮し,自ら通う高校の臨時教師の役を皮切りに,国際線のパイロット,小児科医,地方検事という具合に華麗な詐称を続けるうちに,莫大な金額の小切手詐欺を働くのですが,これは小切手社会に馴染みの無い私たち日本人には少々ぴんと来ない面があります.私自身は欧州のある国で2年間ほど小切手生活をしたのですが,確かにあのようなものをいちいち照合しなければならないのでは,一定の割合で不正が生じるのはやむを得ないとも感じました.
彼を更生させるエピソードの中で,詐欺は現実逃避だと諭して引き戻す場面があるのですが,まだ若い主人公はこの説得によってようやく現実世界に生きる覚悟を決めます.主人公がまだ十分に若いからこその決断だったのではないでしょうか?中年を過ぎていたら?おそらく現実に戻る勇気は無く,死ぬまで仮想の世界に遊ぶ逃避行を選ぶに違いありません.そうだとすると,現実の辛さに向き合うために,若さは非常に重要な要素だと思わざるを得ません.詐欺師の場合だけ・・・とは言えない気がします.思い当たる節はありませんか?
映画としては,豪華な主演陣を手練(てだれ)の監督が引き立てていくので,全く安心して観ていられます.スピルバーグはこういう作品は本当にうまい.
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