世界の都市計画の歴史を俯瞰
都市計画の世界史(講談社現代新書) - 日端 康雄(著)
古代メソポタミアの都市の成り立ちから始まって,古代ギリシアのポリス,ローマ時代の都市,中世,近代,現代というぐあいに時代を下りながら,都市の構造と,そこに込められた意思や希望を網羅的に俯瞰することがこの本の目的のようで,その意味では十分に成功を収めていると言えると思います.小さく不鮮明ながらも多数の都市のプラン(平面図)が掲載されているのも親切だと言えます.
新書にしてはかなり厚い本で,お値段も1,000円を超えています.通勤電車の中で読むにはちょっと堅苦しくて教科書的な無味乾燥さを感じます.そのため,それほどすらすらとは読み進めないのですが,それでも近代以降の都市計画についての記述は詳細で,大変興味深いものがあります.
私が特に興味を引かれたのは,バロック以降のヨーロッパとアメリカの都市計画です.私はこれまで,都市計画の歴史をかなり誤解をしていたようで,実はアメリカの都市計画の歴史が意外に古いこと,またバロック都市計画がどのような特徴を持ち,どのような時代背景と意図の下に進められたのか,大変勉強になりました.パリのことを思い出しながら,この部分を読んだのですが,パリは世界で最も典型的なバロック都市なのですね.私がかつて,"いかにも過剰装飾" とか "政治権力の舞台装置" と感じたシャンゼリゼ大通りやコンコルド広場は,ジョルジュ・オスマンのパリ改造計画(明治維新のころです)によるもので,全てバロックの特徴そのものだったのです.また,有名な広場でも,ヴァンドーム広場は中世的で,コンコルド広場がバロック,というのも眼から鱗です.
後半は,近代以降の過密都市の劣悪な環境から人々をいかに救うかということがテーマになります.ヨーロッパでの様々な田園都市の試みが紹介され,それらは現代的な都市計画論,都市計画行政につながっていきます.最終段でメガロポリスやメガシティの話が出てくるのですが,ここまで来ると,現代と近未来の都市はいかにあるべきかという著者の見識が紹介されてもよかったと思いますが,この本は教科書に徹しているらしく,著者の思いを紹介していないところが大変残念でした.
余談ですが,巨大宇宙ステーションの居住区の設計とか,月面基地の都市計画の話があってもよいし,ラリー・ニーヴンの壮大な SF 小説 "リングワールド" を都市計画ならぬ惑星計画として紹介することも面白いと思います.
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