リマスタリングで蘇る熱いトタン屋根の猫
熱いトタン屋根の猫 [DVD] - 出演:エリザベス・テイラー,ポール・ニューマン,監督:リチャード・ブルックス
"熱いトタン屋根の猫" という非常に刺激的なタイトルの戯曲は,ご存知,テネシー・ウィリアムズの作.演出はかのエリア・カザンで,同年に映画 "エデンの東" を監督しています.この戯曲が映画になったのが本作です.監督はリチャード・ブルックス.
まず眼を奪われたのはプリントの素晴らしさです.1950年代の作品とは思えません.傷などは全く無く,色については濃度も彩度もちょうど良く,家具や衣装のテクスチャーが見事に再現されています.素晴らしいリマスタリングです.このブログで以前にレビューした映画 "マイ・フェア・レディ" のリマスタリングにはわずかに劣りますが,それと張り合う質の高さです.どのくらいの労力と時間をかけたのでしょう?頭が下がります.
場面のほとんどはアメリカ南部の大農場主の邸宅内部なので,基本的には室内劇.それでは照明はどうかというと,その手法は古典的です.舞台演出の影響を強く受けていると思われますが,人物の顔に強く照明を当てて陰影を強調するというやり方です.私はこの照明方法は古臭いと感じてあまり好きでは無いのですが,現代の韓国テレビドラマ,例えば "チャングムの誓い" では相変わらずこのような照明法が幅を利かせていて,あれー?と思ったりします.
話の内容は,死期の近い農場主の相続に関する家族の愛憎と,同性愛の疑いがある夫とその妻との間の愛情のもつれ,といったもので,いかにも舞台で演じるに相応しい言葉と感情の激しいぶつけ合いです.映画を観ていても,まるで舞台劇そのものと感じるほどで,もっと映画ならではの演出はできなかったの?と不満を感じるほどでした.言葉の応酬が続くので,このような欧米の文化に慣れていない私たちには息苦しく感じられる場面も多いのですが,50年代のアメリカの舞台芸術の水準の高さの一端を表現していると思えば,十分に楽しめます.アクターズ・スタジオの沢山のインタビューを観ていても,アメリカの映画芸術に対する舞台芸術の影響は非常に濃厚なので,この作品はその初期の融合例としても意味があるものです.
まだ若々しいポール・ニューマンの演技が見もの.素晴らしい舞台俳優だったのですね.妻の役を演じたエリザベス・テイラーは観ての通りの名女優ですが,ポール・ニューマンとの相性と言う意味では今ひとつ.もう少し若々しい感じの女優さんのほうが良かったのではと感じました.しかし最も目を引かれたのは長男の妻メイを演じたマドレーヌ・シャーウッドの演技.見事なものです.性格の悪さを全身で表現する実力は素晴らしいものがあります.この人はブロードウェイ版でもこの役を演じていたのだそうです.道理で・・・
やはり名作は時代を超えて名作ですね.
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