モータウン好きなら必見のミュージカル映画
ドリームガールズ スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray] - ジェイミー・フォックス(出演),ビヨンセ・ノウルズ(出演),ビル・コンドン(脚本)
ドリームガールズはモータウンの音楽が好きな人には必見のミュージカル映画です.モデルはそう,あのシュープリームズ.ダイアナ・ロスを思わせる主人公,ジェームズ・ブラウンのことではないかと想像させる男性シンガー,それらが次々に現われてはヒット曲を飛ばし,スターにのし上がり,ラスベガスで派手なショウをうち,そしてやがては疲れ,傷つき,悩み,迷い,罵り,争うのですが,しかし互いを受け入れ,許し,癒し,再生していく,という物語です.私はあまり期待せずに観始めたのですが,途中からぐいぐいと引き込まれ,大変楽しく鑑賞することができました.なにしろ,多感な時期に同時代の音楽シーンをリアルタイムで追っかけていたのですから,興味津々です.
時は1960年代のデトロイト,あのモータウン・レコードもこのときはまだ無名の駆け出しのレーベルでした.それを一大レーベルののし上げたのが辣腕プロデューサのカーティス.モータウンの創始者がモデルのようです.彼が行ったマーケティングの方向性は,今からすれば非常に正統派であり王道です.すなわち,黒人にのみに受け入れられるソウルや R&B から,白人や若者にも広く受け入れられる音楽を目指した,ということに尽きます.映画の中では,フロリダへのツアーでこの方向への最初の試みが行われ,歌唱力よりはルックスを重視してリードヴォーカルの変更を行い,将来の亀裂の種を作ります.しかし,この方向性は商業的には大成功をおさめ,それが今日のアメリカの音楽シーンを作ったといっても良いくらいでしょう.アメリカの音楽シーンには付き物の,芸術性と商業性のせめぎ合いです.このブログでよく紹介するカントリーやブルーグラスの世界でもこのせめぎ合いは続いています.
やがて,レーベルの経営層とミュージシャンたちの心は離れていきます.皆が傷つき,悩み,争うのですが,それらがすべてミュージカルという芸術装置の上で演じられるところが大きな救いです.どんなにつらい心の叫びも,素晴らしい歌と音楽に乗せられて私たちの目と耳に届けられるので,あまり深刻にならずに,むしろ楽しみながら,受け入れることが可能になります.全体として,歌やダンスのレベルは大変高いので,安心して観ていられます.中にはエディ・マーフィが演じるジミー・アーリーのように,一体誰が吹き替えているんだろうなぁ?と想像したくなるような場面もありますが,ほとんどは出演者自身が実際に歌っているように見えます.ビヨンセは思う存分自分を表現していたように見えますし,特に,実力がありながら降ろされたエフィー役のジェニファー・ハドソンは出色の出来.この映画では彼女の素晴らしい歌唱力を存分に楽しめます.それにしても,この記事を書くまで彼女が American Idol 出身だとは知りませんでした.まだ若いので,これからが大変楽しみですね.
モータウンの音楽が好き,ミュージカルが好き,という向きには大変おすすめの映画.もうじき Blu-ray のコレクターズ・エディションも出るようです.
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