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2010/09/27

国境とさすらう人と詩人の言葉と映像美

テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX IV(永遠と一日/再現/放送/テオ・オン・テオ) - ブルーノ・ガンツ(出演),イザベル・ルノー(出演),テオ・アンゲロプロス(監督)

テオ・アンゲロプロスの作品は,数年前に最初に観たのがこの "永遠と一日" で,それから最近立て続けに観たのが "シテール島への船出" と "霧の中の風景".そしてつい先日再びこの "永遠と一日" を観ました.

うーん,何というか,映画監督というよりは,こだわりの映像詩人ですね.非常に詩的な映像美がこれでもか,これでもかと押し寄せてきて,それを味わい咀嚼するいとまもないほど,ち密に構成された映像を,それも超長回しのカットや360度パンなどを見せつけられるので,なかなか息を継ぐ間もありません.光と影の表現も大変詩的で,キューブリックとは別の意味で表現スタイルの徹底に圧倒されます.

さてあらすじですが,重病を患った著名な詩人が,明日から入院という日に過去の追慕に浸っていたのですが,ふとしたきっかけでアルバニア系の不法入国の少年をかくまうことになり,一日という短い間ではありますが,少年と旅をする間に心を癒されていくロードムービー,という趣の作品です.主演のブルーノ・ガンツも名演ですが,少年役の男の子や,妻の役の女優さんもなかなかの名優です.

この監督の曇天時にしか撮影しないというこだわりは,写真を趣味とする者としてある程度共感できます.直射日光の下での強い陰影ではコントラストが強すぎて,光の当たった部分が白とびしたり影の部分が黒つぶれして階調が無くなり,ディテールの再現が難しくなります.それを避けるにはレフ板を使うことになりますが,たいていは不自然な照明になって満足のゆくものが得られません.それに対して薄日程度の日光だと,光が被写体全体によく回って,ディテールの再現も,微妙な陰影もうまく表現できるので,そのような光を好むのは大変よく理解できます.この頑固なまでのポリシーのおかげで,この監督の作品はいずれも柔らかなコントラストと控えめの彩度の色彩に彩られており,雨や霧やもやと大変相性が良くなっています.これはこの監督の作品すべてに共通しているように思います.

このようなこだわりを持っている割には,この監督の雨のシーンの撮影は非常に乱暴に思えます.ホースで水をかけるだけで,いかにもホースで水をまいているのが見え見え.光にあれだけ気を使う割には,ずいぶんいい加減だなぁと思ったものです.この監督の作品には雨のシーンや水たまりのシーンが頻出して,それは大変味わいのあるものなのですが,降雨のシーンだけはいただけません.もっと自然にしとしと降る雨を取り入れてくれないものかなぁ?

さて,この監督の映画に共通して登場するものを挙げるとすると,一つは国境であることは間違いありません.上記の3つの作品のいずれもが,国境というものが高い塀のように閉塞感を持って主人公たちを取り囲んでいるさまを感じることができます.もう一つは,居場所無くさまよい続けなければならない主人公の運命.そして,詩的な言葉とそれを引き立てる美しく物悲しい音楽,ということになるでしょう.この作品では詩が重要な役割を果たしているのですが,それに劣らず音楽も素晴らしいです.

ベルリンカンヌでの受賞の常連で,この監督が新しい作品を発表するたびに映画ファンはざわめき立つのですが,もう次の作品が準備されているとか.楽しみですね.

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