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2011/01/29

落ちぶれ弁護士の魂に火が点けられた

評決 [DVD] - ポール・ニューマン(出演),シャーロット・ランプリング(出演),シドニー・ルメット(監督)

評判が良いことは知っていたのですが,恥ずかしながら初めて観ました.そしてこれがポール・ニューマンの最高傑作のひとつと言っても良い作品であることを確信しました.監督は "
十二人の怒れる男
" を撮ったシドニー・ルメットで,陪審が重要な役を演じるという意味で "十二人の怒れる男" と酷似したモチーフを持っています.

しかしこの映画の良い所は,ポール・ニューマンが演じる主人公が,かつては理想を持った弁護士だったのに,今は落ちぶれて酒浸りの生活を送る落ちこぼれ弁護士,という設定になっているところでしょう.英雄でもエリートでもない,負け犬のような男.しかもそのような男が,お情けで回ってきた楽な和解案件の弁護を担当するうちに,かつての正義の熱情を取戻して,危なげながらも勝訴すること.

社会の不正や不条理を告発することに長けている監督だけあって,主人公を取り巻く不正義の描写は見事です.しかし,この映画の見どころは何と言ってもポール・ニューマンの演技力.この人の演技力は,初期の作品 "熱いトタン屋根の猫" を観てもよくわかるのですが,アクターズ・スタジオで鍛えられ,のし上がってきただけのことはあります.この作品でも,その実力がいかんなく発揮され,惨めな初老の弁護士が正義に還るさまを実に見事に演じました.

カトリック教会が設立した名門病院の医療過誤によって植物状態にされてしまった女性.その女性がこの映画の本当の主人公です.家族から訴えられた教会は和解を図ります.教会の司教らしい人物にはまだ良心が残っているように描かれますが,取り巻きは実に事務的にことを進めようとします.原告側も和解で決着するつもりだったのですが,依頼された弁護士,すなわちポール・ニューマン演じる主人公が植物状態の女性の
ポラロイド写真
を証拠として撮影するうち,その悲惨さに気付き,裁判で勝ってやろうと思い直すのです.この場面の演出が非常に見事で,セリフは一切無し,撮影されたポラロイド写真にゆっくりと撮影像が浮かび上がってくるだけなのですが,像が浮かび上がるのとともに弁護士の内面も変化し,ここで正義を成すべきだとの確信に至るさまが観ている者にもはっきりとわかる,素晴らしいものです.これは映画史上にも記録されるべき大発明ではないかと思います.

教会は優秀な大手弁護士事務所に弁護を依頼します.この弁護士事務所内部の動きが克明に描写されているのも見事.観れば観るほど,裁判で勝つためにはこのようなテクニックがあるのか,たとえそれが真実と異なっていても,ということがわかって嫌な感じになるのですが,しかしこれらは裁判の現実を知る良い勉強にもなっています.

ポール・ニューマンがあてにしていた証人はこの弁護士事務所の策略で雲隠れしてしまいます.仕方なくどうにかこうにか唯一の手がかりだった当時の看護婦を説得して証言台に立たせます.証言内容は,医師が彼女が書いた問診票をろくに見ずに全身麻酔をかけて患者を嘔吐・窒息させてしまったこと,しかも彼女に問診票をねつ造するよう強要したことだったのです.ところが,これも被告側弁護士の巧みな弁論で証拠不採用・証言自体を削除,というひどい扱いを受けます.

しかしここからが陪審制の面白いところ.どんなに法廷テクニックで証言を形式上消し去ったとしても,陪審員の心には真実が何であったかは深く刻み込まれます.そして評決の直前にポール・ニューマンが陪審員の良心に訴えかける弁論を行うのですが,これは,落ちぶれていた身から正義を成すために改心した彼自身への応援演説でもあったように思います.ただしこの裁判のように,論理に反する評決を陪審員が出してしまうリスクがあるわけですから,手放しでは喜べず,正義との折り合いの付け方はなかなか難しいとは思います.

結果は "十二人の怒れる男" と同様ハッピーエンドなのですが,途中から現われて重要な役割を果たすのか果たさないのかわからないままの女性とのエピソードが最後に影を落として幕,という終わり方.これは少々評価が分かれるかもしれません."十二人の怒れる男" のような晴れ晴れとしたさわやかさや,"ショーシャンクの空に" のようなざまーみろという感じは全く与えない,影のある終わり方です.この女性役を演じたシャーロット・ランプリングの存在感が際立っていただけに,シナリオには疑問が残ります.

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