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2011/01/30

超長期の視点でマクロ経済を論じると・・・

超マクロ展望 世界経済の真実(集英社新書)[新書] - 水野 和夫(著),萱野 稔人(著)

水野和夫さんは,リーマンショックの前後から注目を集めているエコノミストです.他のエコノミストと決定的に異なるのは,超長期の歴史的視点で人類の経済を論じていること.例えば,ヨーロッパが封建領主制から絶対王政に変化した理由を,マクロな利子率という指標をもって説明してしまいます.もちろん,これだけで体制の変更がなされたわけではありませんが,しかし,大航海時代が始まり経済的な環境が激変したことが,政治体制を揺るがせるきっかけになったことは間違いありません.望湖庵日記では,水野さんがリーマンショック直後に出された新書をレビューしたことがあります.今回ご紹介するこの本は,水野さんと政治哲学者の萱野さんの対談という体裁を取っており,超長期のグローバル経済を,政治哲学の視点と融合させながら論じた,大変刺激に富むものです.

この二人の論点を要約すると,経済がいくらグローバル化しても,国家の役割が無くなるわけではない.また,経済にとって政治的ヘゲモニーは極めて重要な役割を演じてきたが,これからはヘゲモニーの中身が変わっていく,ということになります.

まず,前者についてですが,ここ数年間の間に急速に世の中全体にコンセンサスが得られるようになった概念だと思います.リーマンショックにおいて,アメリカの自由経済が崩壊の危機に瀕した時に,それを救った最後の砦,あらゆる金融リスクを引き受ける "The Last Resort" は実は国家でした.これは日本においても同様で,市場とは独立した存在にしか市場を救う役割は期待できなかったのです.

私にとって特に印象的だったのは,萱野さんが繰り返し主張していたことで,国家の徴税権というものは,自由主義経済の外にある独立した権利であるということ.私には,そのために社会の中の金の流れがそれぞれ異なる原理に基づいて複線化されることにより,租税がある種の安定化装置として働くとまで言ってほしかったくらいです.徴税権は,政治哲学にとっては極めて重要な概念であり,自由正義社会契約という概念とも密接につながるだけに,もっと深堀してほしかったという無念さが残りました.

後者については,ここ数年,先進工業国が相対的に没落するとともに,新興国がヘゲモニーを獲得していく傾向がますます明らかになって,高い関心を持たれるようになった概念だと思います.中世の封建制から大航海時代,絶対王政時代を経て近代の国民国家,さらには現在のように市場のルールや制度を自らに都合よく合意させる能力に至るまで,ヘゲモニーの所在は変転してきましたが,これからどうなるのか?資本はすでに国民国家とは無関係に自らの利益を追求しているわけですが,それが政治的なヘゲモニーとどのように影響を及ぼし合い,変転していくのか,まだ誰も答えを用意してはいないように思います.

水野さんがこの対談が示すように,先進工業国の収支は原油に代表される一次資源の価格に極めて敏感です.新興国がこれからますます一次資源を必要としている以上,一次資源の価格は上昇を続け,一次資源は発展途上国から安く買い叩けるという前提で組み立てられてきた国際自由市場そのものが挑戦を受ける可能性が高いと思います.アメリカが熱心に維持してきた国際石油市場が,ベネズエラのチャベス大統領に代表される資源ナショナリズムによって挑戦を受けていることは,そのもっとも端的な事例ではないでしょうか?

さらに言えば,今や絶好調の韓国サムスングループが毎年一兆円規模の利益を叩き出しているとはいえ,その半分ほどは国外の株主に流出しているという事実をよく認識すべき,との指摘も重く受け止めるべきです.ここに,大航海時代以来の資本主義のおぞましさを見るとともに,欧米資本のしたたかさを見る思いがします.

日本や日本の企業などが,このような状況の中でどのように自らの立ち位置を定め,ヘゲモニーに加担していくのか,はたまた外部のヘゲモニーに翻弄されていくのか,超長期の視座というものがますます重要になってきたことを実感させられます.

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