実に秀逸な虚無感あふれるミステリー映画
チャイナタウン 製作25周年記念版 [DVD] - ジャック・ニコルソン(出演),フェイ・ダナウェイ (出演),ロマン・ポランスキー(監督)
やはりこういう作品は見ておくべきものだとつくづく思い知らされました.チャイナタウンはロマン・ポランスキーが監督した1974年のアメリカ映画.フィルム・ノワールの系譜をひく1970年代アメリカ映画の最高傑作の一つと言ってよいと思います.
Wikipedia にはこの映画にまつわる逸話がいろいろと出ていますので,ここでは主として私自身が感じたことを書きたいと思います.
まずは主演のジャック・ニコルソン.アメリカ映画界を代表する個性の強い俳優です.演技力はもちろんトップクラスのさらにかなり上位.しかし,その風貌と狂気を演じることのうまさが浸透しすぎて損をしている点は否めません. "シャイニング" や "カッコーの巣の上で" を見てしまうと,「この人ってこういう人なんだ」と思ってしまいがちです.
この映画での役は私立探偵.つまり犯罪をあばく側です.犯罪者側の役を演じるのが順当では?と誰でも思ってしまうところが実に損をしていると思います.しかし,この映画での演技もさすが!と思わせるものです.鼻を切られて絆創膏を貼っているぶざまな顔を延々とスクリーンに晒しながらも,堂々と秀逸な演技をこなします.この俳優の素晴らしいところは,表情やしぐさに過度な "つくり" が無いにもかかわらず,全体として役の人物の内面や心情を十分に雄弁に表現できるところです.
フェイ・ダナウェイも素晴らしい演技.前半は水道局長夫人として,裕福な暮らしをしている高慢な女という役ですが,後半は父親に人生を台無しにされた哀れな娘を見事に演じ分けます.この人も演技派なので,ジャック・ニコルソンとの共演はまさに舞台劇を見るようです.
そしてこの映画の中で最も存在感を放っているのが,あのジャック・ニコルソンではなく,悪役の親玉を演じたジョン・ヒューストンです.この人が出てくるだけで周囲が霞んでしまうほどの存在感は素晴らしいものがあります.私生活も豪快だったそうですから,ジャック・ニコルソンとは対照的に,地を出して演じていたのでしょう.
監督は鬼才のロマン・ポランスキー.近年では "戦場のピアニスト" が大ヒットを取りましたが,おそらくは,性格破綻者と言ってもよいくらいのわがままで横暴な人だと思われるので,撮影は困難を極めたことでしょう.制作関係者の苦労がしのばれます.この監督の少女との淫行癖は長年にわたり,ナスターシャ・キンスキーも相手の一人だったと Wikipedia では述べられています.少女淫行の罪に問われ,この監督はアメリカには入国できない身です.実はこの映画のプロットでも父親が近親相姦で娘を孕ませたことが非常に重要なシナリオの分岐点になっているのですが,これは単なる偶然でしょうか?
しかし,この映画のラストがハッピーエンドにならず,フェイ・ダナウェイが射殺されて血まみれになったシーンはポランスキーが主張してこうなったそうですから,この映画のあるべきシナリオとは何かが良くわかっていた監督だったと思います.
やや長い映画ですが,見ていて飽きることはありません.アメリカ映画の最高傑作のひとつです.
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