追悼:アップルはやっぱりLISA
わけのわからないタイトルだと思ったあなたは,やっぱり LISA を知らない人ですね.Steve Jobs が死んだので,アップルの歴史がメディアにも掲載されていますが,当時を知らない人がニュースリリースをコピーしただけの記事が多くて,私には不満が残ります.
Steve は私と同い年.Bill Gates や西和彦も同年または同学年です.そう,私の世代はメインフレームに対抗すべく育ってきたエレクトロニクス版のカウンターカルチャー世代.マイクロプロセッサが世の中を変えると信じて頑張ってきた世代.そしてそれは見事に実現したのです.
アップルはすでに Apple II で大きな成功を収めていたのですが,しかしびっくりするようなものはあまり無く,わずかに VisiCalc という表計算ソフトが新規性のあるものでした.しかしまもなく真に革命的なものが出てきました.それが LISA です.ビットマップディスプレイとマウスによるインターフェースは,それまで Xerox の Star や Dolphin などの高級なワークステーションだけで味わえる贅沢だったのですが,それが 10,000 ドルの PC に乗ってやってきたものですから,ハイテク大好きキッズにはまたとないお祭りになりました.
1983年の夏のことですが,私が勤める会社の米国の研究所に LISA が大量に入ってきました.アメリカでは TV コマーシャルも派手に打たれました.私は IT 部門のスタッフから手ほどきを受け,恐る恐る触ってみて大いに興奮しました.日本に戻ってみるとごく少数ながら幹部のオフィスには配備されていたので,こっそりと部長のオフィスに忍び込んでは LISA の上でチュートリアルプログラムを走らせてアプリケーションを学びました.画期的だと思ったのは何と言っても LisaDraw です.これは,後年 Mac が出た後でもしばらくはグラフィック系のアプリケーションが MacPaint のみでなかなか MacDraw がリリースされなかったので,貴重な Draw 系のアプリケーションでした.そのほかにも LisaWrite だったっけな?WYSIWYG のワードプロセッサにも心を打たれました.
そんなわけで,LISA を世に問うたアップルにはいたく感激したのです.もっとも,PC としてはあまりに高価だったためにハイテク企業以外には導入が進まず,商業的には失敗.その後,廉価版の Mac というマシンに衣替えするまでには苦難の歴史が続きました.しかも,Steve Jobs は LISA の開発プロジェクトから途中で外され,ゲリラ的に Mac の開発プロジェクトで反体制をアジっていたというのですから,いかにも Steve らしい話です.つまり,私の原体験である LISA には Steve は十分には貢献していなかったということです.
ま,そんなことは今となってはどうでもよいことです.おやすみ,Steve.私は君よりも長生きするつもり.もっと美しいものを見て人生を楽しみたいから.痩せた革命家を気取った君の人生には敬意を表するけれども,人生にはもっと別の楽しみ方もあることを私は知っているのでね.
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コメント
本題とは外れますが、ずっとメインフレームとミニコンしか使っていなかったので「Xerox Star」を初めて触った時は、すごいと思いました。
投稿: きたきつね | 2011/10/07 23:58
きたきつねさん,
ほほう,そういう話は初耳ですね.私はSmallTalk80というOSにも驚愕しました.
投稿: 俊(とし) | 2011/10/08 08:28
LISAは知っていはいましたが、実機を見たことも、触ったこともありませんでした。
自分がコンピュータを使い始めた頃には、既にSteve JobsはAppleを追われ、NeXTを世に出していました。
当時はNeXTの漆黒の筐体が格好良く、憧れたものでしたが、非常に高価で手が出ませんでした。
そんなことが思い出されます。
投稿: umex@白梅亭 | 2011/10/08 08:49
白梅亭さん,こんにちは
NeXTはソニー製の130MBの光磁気ディスクがメインドライブだったのですが,さすがに読み書きが遅く,ブートでは長時間待たされ,いろいろな作業もあまりにレスポンスが悪く,全く実用になりませんでした.私も一度だけイライラしながら使ったことがあります.
光磁気にほれ込んで採用したのはもちろん Steve Jobs だったのですが,このあたりのユーザビリティの反省が,のちの iPod や iPhone に反映されただと思います.
投稿: 俊(とし) | 2011/10/08 11:04