« どこへ行ってもウメが満開 | トップページ | 白狐は神の使い »

2013/03/18

知性の輝きが鈍るとき,愛が魂を救う

アイリス [DVD] - ジュディ・デンチ(出演),ジム・ブロードベント(出演),リチャード・エア(脚本)

いわゆる名画の一つに数えられるべき映画です.才能と美貌を兼ね備えた主人公,哲学者であり文学者でもある Iris Murdoch,彼女の輝くような若き日々を演じるのは Kate Winslet.ショートヘアで知的な容貌が見事で,この役柄に正にうってつけの演技.このフィルムの公開は2001年,かの "タイタニック" の公開である1997年からはすでに4年が経ち,彼女の本格派女優としての名声はすでに確立していたのですが,それでもこの映画における初々しさは見ものです.彼女の演技力は本格的なもので,様々な役柄を見事に演じる,その実力には毎回驚かされます.ネバーランドはさらに3年後,2004年の作品です.このキャリアの積み重ねぶりが頼もしいです.

後年の Iris を演じるのはイギリスのベテラン舞台俳優 Judi Dench.この人が有名になったのは実は 007 シリーズの "M" の役柄で出演するようになってから.この人を見るとすぐに,ああ M の女優さん,と思い出す人は多いでしょう.そして彼女こそがこの映画の主役.抜群の知性を誇りながら,年とともにアルツハイマーで精神を侵されていくさまを見事に演じ,観る人に深い感銘を与えました.同様の役は,例えば "ドライビング Miss デイジー" で Jessica Tandy が演じたものが記憶に残っていますが,Judi Dench の演技もそれに劣らず素晴らしいものです.この人は立っているだけで存在感を放つことが出来る女優ですが,それはこの映画でも同様です.難を言えば,その知的な存在感のゆえに,認知症で精神が濁ってきたときにも,透明な知性を感じさせてしまうところでしょうか.

彼女の夫役として渋い輝きを放っていたのは Jim Broadbent という俳優さん.この人もイギリスの舞台俳優の出身で,じつはハリー・ポッターシリーズなど様々な映画に幅広く出演している人です.舞台俳優出身らしく,演技の実力はまさに一流で,実に安心して観ていられる,そういう俳優です.

映画は,全体としては若き日の栄光と老年の衰退の日々が交互に描かれる形式ですが,若いころ知的な活躍を遂げた人が,知性や精神を侵されていくのを観るのは非常につらいものがあります.それでも救われるのは,夫が彼女を献身的に支えていく,その愛の力に私たちが感動させられるからだと思います.と同時に,同じ境遇に立たされたとき,このような愛情を伴侶に注ぐことが出来るのか,問いかけられているような気がして,緊張させられます.

| |

« どこへ行ってもウメが満開 | トップページ | 白狐は神の使い »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 知性の輝きが鈍るとき,愛が魂を救う:

« どこへ行ってもウメが満開 | トップページ | 白狐は神の使い »